こんにちは、つみれです。
このたび、彩藤アザミさんの『不村家奇譚 ある憑きもの一族の年代記』を読みました。
不村家という一族と、彼らを襲うとある怪異との関係を、年代記風に描き出す連作短編です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:不村家奇譚 ある憑きもの一族の年代記
著者:彩藤アザミ
出版:新潮社(2021/11/30)
頁数:288ページ
スポンサーリンク
目次
秘密を抱える一族・不村家を襲う怪異を年代記風に描く!
私が読んだ動機
私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年1月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 現代的なホラーを楽しみたい
- 怖い話が苦手だが、ホラーを読んでみたい
- ミステリー要素のあるホラーが好き
あらすじ・作品説明
東北の山奥にある旧家・不村家には、身体の一部に障害を抱える代わりに、人智を超える能力を持つ子が生まれることがある。
その子は、ときに不村の一族を繁栄に導いてきた。
しかし、その裏では「あわこさま」と呼ばれる怪異が不村家を襲っていた。
「水憑き」の血を引く不村家の、百年以上にわたる業の歴史を年代記風に描き出す。
和風ゴシックホラー
本作は、ジャンル的にはホラーのなかでも「和風ゴシックホラー」とでもいうべき属性の作品です。
特に本作序盤は、田舎の旧家で起こる怪異がおどろおどろしく描かれており、その独特な雰囲気がたまりません。
日本的な世界観で展開される超自然的な怪奇現象が好きな人におすすめの一冊となっていますよ。
「年代記」のおもしろさ
上で本作のジャンルは和風ゴシックホラーと書きましたが、その雰囲気が少しずつ変わっていくのが本作のおもしろいところです。
どういうことかというと、副題に「年代記」とある通り、本作は一つの時代を描いているのではありません。
本作は連作短編になっており、編が変わるたびに年代が下っていくのですが、それにつれてホラーの内容もだんだんと現代的になっていくのです。
物語の序盤では旧家での「どこかおどろおどろしさすら感じさせる怪異」が描かれていますが、時代が下って終盤に至るとホラーの内容もだいぶ現代風になっています。
一冊でさまざまな雰囲気のホラーを楽しめるのが本作のおもしろいポイントの一つですね。
不村一族の歴史を描く
本作はタイトルに「不村家」とあることから、最初、私は不村家という空間的舞台で起こる事件を描いているのかと思っていました。
舞台はずっと不村家という「家」で展開されるものと思っていたのです。
ところがそうではなく、本作は不村家という一族が100年の間に体験する様々な怪奇現象が描かれています。
上にも書いた通り本作は連作短編となっていますが、編が変わるたびに時代が変わります。
当然、時代の変化に伴って主人公以下登場人物も変わっていくので、物語の雰囲気がガラッと変わります。
私は4編目「水葬」を読み始めたとき、物語の雰囲気が一気に変わったのに驚きました。
それまでの3編はどこか閉塞感があったのに対し、「水葬」は舞台が山奥の田舎から四国の東に浮かぶ島に移り、視界が一気にひらけた感じがしたんですよね。
個人的にはこの4編目「水葬」が、本作のなかで最も良かった短編です。
雰囲気的には日本旧家が舞台であることと、そこで働く使用人たちがとある特徴を持っていることからくる独特の空気感が魅力の2編目「さんざしの犬」もかなり良かったです。
以上の通り、編によって印象がかなり変わる作品なので、読み終わった人同士で「どの時代のお話が好きか」を語り合うのもおもしろそうですね。
スポンサーリンク
ロジック重視のホラー
私が本作を読んでいて「おもしろいな」と思ったのが、ホラーでありながらかなりロジック重視でミステリー的な味わいがあるということ。
物語を読み進めていくと少しずつ「怪異」の法則がわかってくるんですよ。
もちろん「怪異」が相手なので、現代科学で説明しきれないことも多いのですが、だからといって全く荒唐無稽の設定というわけではないんです。
「怪異」のなかにしっかりとしたロジックがあるんですね。
本作には人間が「怪異」的存在に襲われるシーンがありますが、それも「なぜ襲われたのか」「他の人はなぜ襲われなかったのか」と怪異の世界で独自の理論が展開される。
そういう意味では「怪異」の存在を前提とした特殊設定ミステリーということもできそうですね。
前に戻って読み返す楽しさ
上でも書きましたが、本作は物語が進むほどに「怪異のロジック」がわかる構成になっています。
従って、ある程度まで読み進めると、前のページの不可解な描写が一気に鮮明になる伏線的仕掛けもたくさん仕込まれています。
読了後にパラパラと読み返してみると、初読時にはよくわからなかった箇所が驚くほど理解でき「なるほど、そういうことだったのか!」となるわけですね。
言い変えると、序盤は理解するのが難しく読みづらいのですが、後半になればなるほどわかりやすくなる物語ということ。
全体像がおぼろげながらもわかってくる箇所まで到達すると俄然おもしろくなるので、「序盤が読みづらいから」と途中で読むのをあきらめてしまうのはあまりにもったいないです。
本作は序盤が読みづらいことも仕掛けの一つなんですね。
ある程度視界がひらける箇所まで読み進めることをおすすめします。
怖い話が苦手でも楽しめる
私はホラーが大の苦手なのですが、本作は全く問題なく、むしろ楽しんで読み終えることができました。
なぜかというと、本作は「怖がらせる」とことをメインに据えておらず、あくまで「怪異の不思議さ」に重点を置いている点が大きかったと思います。
怖さではなく不可思議さがメインの作品なので、私のように怖いホラーが苦手な人でも楽しめるのではないかと思います。
「ホラーが苦手だから!」と食わず嫌いをしている人ほど手に取ってもらいたい一冊です。ぜひチャレンジしてみてくださいね。
※電子書籍ストアebookjapanへ移動します
読書会風動画
本作『不村家奇譚』は、私が所属している文学サロン朋来堂ミステリ部の2022年1月の課題図書でした。
ミステリ部員5名が読後に本作について語り合う動画がありますのであわせて紹介します。
私も「つみれ」という名前で参加しているのでぜひ観てね!
▼彩藤アザミ『不村家奇譚』の感想を語り合う。【朋来堂ミステリ部】
終わりに
『不村家奇譚』は、不村家という一族と、彼らを襲うとある怪異との関係を、年代記風に描き出す連作短編です。
時代によって雰囲気がガラッと変わる独特の構成が魅力で、さまざまなホラーを楽しめる一冊となっています。
本記事を読んで、彩藤アザミさんの『不村家奇譚』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
スポンサーリンク