三国志演義

  (最終更新日:2020.09.28)

【三国志演義:第一回】桃園の誓いと黄巾の乱

こんにちは、つみれです。

私は三国志が大好きです。

特に『三国志演義』(三国時代の英雄たちの記録をもとにして描かれた歴史小説)は本当におもしろい!

このおもしろさを少しでも多くの人に知ってもらいたいと思いまして、今回は井波律子さん翻訳の『三国志演義』(講談社学術文庫)を読みながら、その第一回(本編は第百二十回まであります(笑))の内容を紹介していきます。

 

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桃園の誓い!

桃園の誓いと黄巾の乱

第一回 桃園に(ウタゲ)し豪傑()たり義を結び 黄巾を斬りて英雄(ハジ)めて(イサオ)を立つ

(宴桃園豪傑三結義 斬黄巾英雄首立功)

桃園の誓い

後漢末期、中国大陸では黄巾の乱(コウキンノラン)という大規模な農民反乱が発生していました。

黄巾軍討伐の義勇兵を募る高札の前で一人の青年がため息をついていると、背後から虎ヒゲの大男に大喝されます。

大の男が国家のために力を尽くさず、どうしてため息をついたりするんだ

『三国志演義(一)』/井波律子 kindle版、位置No. 615

 

実は青年は漢王朝の血筋の者でしたが、黄巾賊を退治する力がないことを嘆いていたのです。その旨を伝えると、大男はその志に共感。

さっそく旗揚げの相談をしようと二人して居酒屋に向かうと、先客に長髭で赤ら顔の青年がいます。

二人は、これはただ者ではないと思って声をかけてみるとこの赤ら顔も義勇兵の志願者。

三人は意気投合し、旗揚げについての計画を練り始めます。

高札の前でため息をついていた青年は劉備(リュウビ)

劉備の背後から大声で話しかけた虎ヒゲの大男は張飛(チョウヒ)

居酒屋ではち合わせた長髭赤ら顔の青年は関羽(カンウ)

彼らはその翌日、張飛の家の裏にある桃園で義兄弟の契りを結びます。

同年同月同日に生まれなかったことは是非もないとしても、ひたすら同年同月同日に死なんことを願う

『三国志演義(一)』/井波律子 kindle版、位置No. 647

 

宴会のなかで、劉備を長兄、関羽を次兄、張飛を弟と定めたこの誓いが、有名な「桃園の誓い(桃園結義)」です。いかにも主役らしいエピソードといえますね。

三国志演義の前半は、彼ら3人を主役に据えて展開していくのです。

武器がカッコいい

旗揚げに際して劉備たち3人は得物となる武器をつくりますが、これがカッコいいんですよ。

武将名 武器名 説明
劉備 雌雄一対の剣 二振りの剣
関羽 青龍偃月刀(セイリュウエンゲツトウ)冷艶鋸(レイエンキョ) 巨大な長刀
張飛 蛇矛(ダボウ)点鋼矛(テンコウボウ) 刃が蛇みたいにくねくねしている矛

とくに関羽の青龍偃月刀と張飛の蛇矛は彼らのトレードマークとも言える武器で、この後もたびたび物語に登場します。

木登りのエピソード

劉備と木登り

少しマニアックですが、民間伝承に、桃園で義兄弟の盃を交わしている最中、兄弟の順を決める段になって3人が大喧嘩をしたというエピソードがあります。

「じゃあ、木登りで決めようじゃないか」

なぜか木登りで兄弟の順番を決めることになります。明らかに酔っていますね。

力自慢の張飛はさっそく木に飛びつき、すぐにてっぺんまでのぼってしまいます。

関羽も木のなかほどまでのぼっています。

ところが劉備は、木に飛びつくことなく、木の根本にどっかと座り込んでいます。

てっぺんにいる張飛が言います。

「おれが一番はやくてっぺんにのぼった。おれが長兄だ」

関羽が言います。

「では、私が次兄ということになるな」

劉備は二人に反論します。

「関羽、張飛。よく考えてみよ。木はてっぺんから生まれるものか? それとも根っこから生まれるものか? 木にとって一番大事なものは根っこではないか」

こうして劉備が長兄になったということです。

子どもっぽくて微笑ましく、私の大好きなエピソードです。

黄巾の乱勃発!

黄色い旗

後漢の腐敗

では、そもそもなぜ黄巾の乱などという大規模な農民反乱が起きたのでしょうか。

それは後漢王朝の腐敗に原因があります。

後漢の第11代皇帝桓帝(カンテイ)と第12代皇帝霊帝(レイテイ)はともに宦官を信任していたため、宦官排除を行おうとした当時の知識人(清流派)たちを弾圧しました(党錮の禁(トウコノキン))。このことから世の中が乱れ始めます。

宦官・・・去勢された官吏のこと。後宮(皇帝用のハーレム)の使用人や皇帝の相談役といった役割をもつ。

皇帝の宦官への信任はますますあつくなり、宦官は増長していきます。

ここで力を持ってくるのが十人の宦官、十常侍(ジュウジョウジ)です。三国志序盤の悪役というべきやつらです。

そんな折、中国各地でつぎつぎと異変が発生します。

  • 宮城温徳殿(オントクデン)の玉座に大蛇が落ちてきてとぐろをまく
  • 激しい雷鳴、豪雨、雹
  • 洛陽(後漢の都)で地震が発生
  • 海が氾濫し、海沿いの住民が大波にさらわれる
  • 雌の鶏が雄になる(!?)
  • 温徳殿に妖気が立ち込める
  • 宮中の玉堂に虹がかかる
  • 五原内(モンゴル自治区)の崖がすべて崩れる

ウソだろ(笑)と思うものもありますが、これらの不吉な現象が繰り返し起こります。

皇帝は「天子」とも呼ばれ、天帝という万物を支配する神さまから唯一選ばれた人間です。

天子は、「国を正しく治め、健全に経営すること」を天帝に求められた存在です。

天子が妄動を繰り返し、国が乱れ始めると、上記のような不吉な現象に見舞われることになります。

要するに、これらの天変地異は、「宦官を信任し、国を混乱に陥れた現在の天子の統治の資質には問題があるぞ」、というしるしなのです。

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黄巾の乱

宦官がのさばることで世の中が混乱すると、当然「世の中をなんとかしなければ!」という者たちが現れてきます。

そのうちの一人が張角(チョウカク)です。

彼は南華老仙(ナンカロウセン)という老人から妖術や、病の人々を治す術を学びます。

彼の救済的な考えは、当時の後漢王朝の腐敗に絶望していた民衆の支持を集め、やがて宗教的な集団になっていきます。

張角は「天公将軍」を自称し、弟の「地公将軍」張宝(チョウホウ)・「人公将軍」張梁(チョウリョウ)とともに、打倒漢王朝を目指して武装集団を組織します。

これが黄巾の乱に発展していきます。

スローガンは「蒼天已(ソウテンスデ)に死す。黄天まさに立つべし」。つまりシンボルカラーが黄色の武装集団を形成していきます。黄巾とは黄色のバンダナのようなものです。

五行説では、五行の順番は、青→赤→黄→白→黒。

漢のシンボルカラーである赤の次にやってくるのが黄色なので、漢王朝打倒を目指す張角は黄色をシンボルカラーとしたという解釈が多いです。

ただし、五行説では「蒼天」が説明できません。ここは本当は赤くならないとおかしく、議論の的になっています。

後漢の腐敗を嘆き、民衆側に寄り添う形で反乱を起こした張角にも大義はありますが、武装蜂起という過激な手段をとったため、朝廷側も即座に反応しました。

思いがけず巨大に膨れ上がった黄巾軍に対し、後漢王朝は盧植(ロショク)皇甫嵩(コウホスウ)朱儁(シュシュン)という名将3人衆に兵を率いさせて対応させたのです。

盧植 出将入相を地で行く儒将。劉備の学問の師。
皇甫嵩 黄巾討伐・涼州(リョウシュウ)の反乱鎮圧に功績。
朱儁 『三国志演義』では有能な将軍だが、吉川英治『三国志』では無能な将軍に描かれる。

吉川英治の小説『三国志』や、それをもとにした横山光輝のマンガ『三国志』では、この朱儁を愚将に描くことで、ともに戦う劉備の将器を際立たせるという創作をしています。

このあたりの演出がおもしろいですね。

そんな社会情勢のなか、官軍だけでは兵士の頭数が足りないという事情から、義勇兵を募っていく運びになっていくわけです。

劉備のデビュー戦

募兵の高札を立てた幽州(ユウシュウ)太守劉焉(リュウエン)のもとに劉備たちがはせ参じると、ちょうどいいタイミングで黄巾軍の将、程遠志(テイエンシ)が副将鄧茂(トウボウ)を伴って進撃してきます。

鄧茂は張飛に、程遠志は関羽にそれぞれ討ち取られます。瞬殺です。

彼らが物語の最初の被害者です(笑)

これは関羽と張飛の強さを読者に伝えるだけの戦いと言ってもいいですね。

幽州太守という表現について。興味のある人だけクリックorタップしてね

井波律子さんの『三国志演義(一)』でも触れられていますが、本来、幽州太守という表現はおかしいです。

なぜなら、州のトップは「刺史(シシ)」、または「(ボク)(「州牧(シュウボク)」とも)」といい、「太守」というのは行政区画的に一つ下の郡のトップのことだからです。ここは幽州刺史が表現的には正しいです。

さらにいうと、劉焉が幽州刺史になったという記録はなく、これは物語上の創作です。

では、「刺史」と「牧」は何が違うのかというと、兵権を持つか否かということになります。

州というのは中国大陸を13分割した巨大な行政区画で、これほど広範なエリアのトップに兵を動かす権限を持たせると、万が一反乱を起こされたときに対処できなくなります。

なので、「刺史」は一つ下の行政区画である郡のトップ「太守」を監察する役目しか持たず、肝心の兵権はこの太守が持つのです。

平時であればこれでいいのですが、黄巾の乱などの反乱が起こると、郡レベルの小さなエリアで各太守が兵権を駆使して鎮圧しようと思ってもなかなか難しいです。

なので、黄巾の乱が激化していくにつれ、より大きな兵権をもつ存在が必要となり、兵権を持つ州のトップ「牧」が誕生していく流れとなります。

そして、その「牧」の設置を提案したのが、何を隠そうこの劉焉なのです。

不思議な関連ですね。

 

翌日、青州(セイシュウ)太守の龔景(キョウケイ)から、黄巾軍に城を包囲されて困っている旨の連絡を受けると、劉焉は部下の鄒靖(スウセイ)を援軍として差し向けます。

これに劉備一行もついていき、今度は劉備発案の奇襲作戦で勝利します。

曹操の登場

劉備たちは、青州太守龔景を救い出したあと、劉焉のもとを辞し、かつての学問の師で今は黄巾討伐の将として戦っている盧植に加勢するため、広宗(コウソウ)の地に向かいます。

劉備が、官軍の将、盧植・皇甫嵩・朱儁の間を往来するうちに、もう一人の三国志の主人公とニアミスします。

曹操(ソウソウ)です。彼は、皇甫嵩・朱儁と戦って敗走する黄巾の将、張宝・張梁を追撃して叩きのめす若き官軍の将として初登場します。

清廉な劉備と異なり、クセのある数々のエピソードを交えながら曹操の性格が紹介されています。

人物鑑定の名手許劭(キョショウ)(字とあわせて許子将(キョシショウ)とも)が曹操を評して「治世の能臣、乱世の奸雄」と言いましたが、これは実に見事なフレーズですね。

黄巾の将を追撃する曹操の姿は、デビュー戦を飾ったばかりでまだ手探り状態の印象を受ける劉備に対し、いかにも戦慣れしている感じがあります。

董卓も少しだけ登場

三国志演義の序盤を彩る生粋の悪役董卓(トウタク)も、第一回で少しだけ登場しています。

数で勝る黄巾軍を相手に一歩も退かずに互角以上の戦いを繰り広げた儒将盧植が、なんと罪人として逮捕され都に護送されます。

劉備にとっては恩人の逮捕。衝撃的なシーンです。

理由は、戦況視察のために朝廷から派遣されてきた宦官左豊(サホウ)に対し、盧植が賄賂を贈らなかったこと。

左豊は朝廷に対し、「盧植はマジメに戦っていません!」とウソの報告をしてしまうのです。

まさに、後漢の腐敗ここに極まれり、ですね。

そして、盧植の代わりに対黄巾の指揮官として派遣されたのが董卓です。

董卓は黄巾軍に大敗し、敗走しているところを劉備たちに救われますが、命の恩人たる劉備たちを「無位無官」であることを理由に蔑視。

張飛がブチ切れて董卓をたたっ斬ろうとしたところで第一回は終わります。この引きのうまさよ!

第一回にして、張飛や董卓のキャラクターを表現しているあたり見事としか言いようがありません。

終わりに

『三国志演義』の第一回を紹介してみましたが、第一回にして実に具の詰まった内容です。

「三国志演義って名前だけは知っているけどどういう物語なんだ?」という方も多いと思いますが、本記事を読んで少しでも興味を持っていただけたら幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

つみれ

▼次回の記事

 

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