こんにちは、つみれです。
このたび、有栖川有栖さんの『ダリの繭』(角川文庫)を再読しました。
「作家アリスシリーズ」の第二作目です!
フロートカプセルという特殊な機械のなかで死んでいた被害者というなかなか魅力的な謎が提示され、不可解なミステリーが好きな方におすすめです。
それではさっそく感想を書いていきます。
▼前作の記事
作品情報
書名:ダリの繭(角川文庫)
著者:有栖川有栖
出版:KADOKAWA (1993/12/7)
頁数:448ページ
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目次
犯人像がコロコロ変わる作家アリス二作目!
私が読んだ動機
「作家アリスシリーズ」の前作『46番目の密室』を読んでおもしろかったので、続いて本作も再読しました。
こんな人におすすめ
- 新本格ミステリーが好き
- 不可解な謎が少しずつ解明されていく小説が読みたい
- 前作『46番目の密室』を読み終わった
コツコツと捜査を進め、不可解な謎を少しずつ解きほぐしていく地道なミステリー。
前作とは打って変わって古典的なミステリー要素はあまり感じられないのですが、その分とても読みやすいです。
「作家アリスシリーズ」の第二作目に当たりますので、前作『46番目の密室』を読んだ方にもおすすめですよ。
もちろん『ダリの繭』だけで完結した物語になっているので、前作を読んでいなくても楽しめます。
あらすじ
奇行が多かったといわれるシュールレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリ。
特徴的な髭を持つダリの心酔者であった有名宝石チェーン店社長の堂条秀一が、神戸六甲の別宅で殺された。
外界から遮断された金属の繭「フロートカプセル」のなかから発見された堂条の死体には、ダリを真似て生やしていた髭がなくなっていた。
現場には多くの不可解な謎が残され、複数の人間の事情が複雑に絡み合う。
登場人物
本作には、巻頭に登場人物一覧がついていなかったので、私が読みながら作成した登場人物メモを載せておきます。便利でしょ!(ネタバレ箇所は削っています)
- 堂条秀一:宝石チェーン「ジュエリー堂条」のオーナー社長。ダリ髭がトレードマーク。
- 堂条秀二:ジュエリー堂条専務。三十五歳。秀一の弟。
- 鷺尾優子:ジュエリー堂条社長秘書。ツィードのジャケットに男もののネクタイ。仕事ができる美貌の秘書。
- 相馬智也:ジュエリー堂条商品企画室室長。
- 長池伸介:ジュエリー堂条宝飾デザイナー。相馬の部下。二十四歳。
- 湯川元雄:ジュエリー堂条営業部長。妻子持ち。
- 青木知佳:入社したての営業部員。湯川の部下。
- 五十嵐耕平:ジュエリー堂条売り場担当マネージャー。銀縁眼鏡。三十半ばすぎだが落ち着いた雰囲気。
- 吉住訓夫:広告代理店「東洋アド」のAE(アカウント・エグゼクティヴ)。ネクタイにこだわりがある。アリスの印刷会社勤務時代に仕事上で付き合いがあった。
- 樺田:兵庫県警一課の警部。
- 野上:兵庫県警の部長刑事。くすんだ色のスーツを着た猫背の中年刑事。私、こういうキャラめちゃくちゃ好き。
- 真野早織:市内私立女子高校の英語教諭。二十七歳。アリスのマンションの隣人で、家を空けるときにアリスに飼っているカナリアを預ける。
フロートカプセル
本作『ダリの繭』に登場するキーワードでもあるのですが、「フロートカプセル」という機械があります。
「そういえば、六甲の別宅には変わった機械があると社長から聞いたことがあります。特殊な液体が入ったタンクのようなものの中に裸で入るとか」
「機械というほど大袈裟なもんじゃない。真っ暗な水槽のようなものに入って瞑想するんですよ。フロートカプセルというんだけどね。あとで実物を拝見しましょう」
『ダリの繭』/有栖川有栖 kindle版、位置No. 491
特殊な水が入ったタンクのなかに浮かんで休むことで疲労回復効果が得られるという機械です。最高すぎる。
前回『ダリの繭』読んだときにも、これは使ってみたい!と思ったのですが、今回も同様ですね。
どこかにこういう機械が設置された施設があるのでしょうか!?ぜひとも使ってみたいです。
ところで、このフロートカプセル。どうしても鳥山明さんのコミック『ドラゴンボール』にあった「メディカルマシーン」(古い)を思い出してしまいますね(笑)
あっさりめの謎解き
「密室」、「クローズドサークル」などのこってりとしたミステリーではないので、そういった「いかにも本格!」というミステリーに慣れていない方にもおすすめできます。
前作『46番目の密室』は、密室といういかにも「本格風で古典的な小道具を使った謎解き」に重点を置いたミステリーでした。
しかし、本作『ダリの繭』は古典的な舞台設定を意識した作りにはなっていません。
コツコツと情報を集めて謎を紐解いていくスタイルで、ミステリーとしてはあっさりめ。
証拠を集めるために遠方に出かける描写なども差し挟まれ、トラベルミステリー的な楽しさもあります。
そのせいか、物語に閉塞感がなく、むしろ非常に開放的といえると思います。
本格ミステリーの王道的な展開を楽しむといった面は薄いものの、そういったものに慣れていない人でもスッと物語に入り込んでいける読みやすさがあります。
もちろん、そこはさすがの有栖川有栖作品。あくまで理詰めの安定感のある謎解きが展開していきますので、その点は心配いりませんよ。
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犯人当てがおもしろい
『ダリの繭』のおもしろさはなんといってもコロコロと変わっていく犯人候補。
本作には複数の人物が登場するのですが、程度の差こそあれ、多くの人物に堂条秀一殺害の動機があるのです。
登場人物みんながそれぞれ秘密のようなものを抱えていて、そこを隠しながら行動するために、謎自体が無意味に複雑化していくのですが、それがすばらしくおもしろい。
そのせいもあってか、登場人物みんながみんなそこそこに怪しいというのが最高ですね。
物語が進行していくにつれて新しい事実が次々と判明し、それに伴って犯人の第一候補も移り変わっていきます。
代わるがわる登場人物が疑われていく部分を楽しいと取るか、まわりくどいととるかで評価はわかれると思います。
容疑者を犯人候補から外していく過程が丁寧に検証されるので、そこを楽しめるかがカギとなりますね。
私は登場人物のなかの3人(秀二・長池・吉住)が怪しいなと思っていた(全然謎解きできていない)のですが、彼らが次々と第一容疑者から外れたり、再浮上したりするのがとてもおもしろかったですね。
火村と有栖川
本シリーズの主役ともいえるホームズ役の火村と、ワトソン役のアリスの仲がとにかく良すぎるんです。
なんか、「新婚ごっこ」とかやってるんですよ(笑)
読んでいて、「お前ら仲良すぎだろ!」と突っ込みたくなるような描写でしたね。
前作『46番目の密室』でもそういった仲の良さが垣間見える描写はありましたが、本作ではより一層深化したというか深刻化したというか、そんな印象です(笑)
火村には、なかなか他人が踏み込めないような壮絶な過去がありそうなのですが、そこに切り込んでいけそうなのはアリスしかいない感じですね。
──俺自身、人を殺したいと真剣に考えたことがあるからだ。
それはどういう状況で、誰を殺したいと思ったのだ、と追及できた者はいない。彼と最も親しい友人である私でさえ、それを問うことは 躊躇われた。──俺は踏みとどまった。踏みとどまったからには、あちらに向かって飛び立った人間ははたき落とす。それが俺の礼儀だ。
『ダリの繭』/有栖川有栖 kindle版、位置No. 1026
今後、シリーズを追っていくなかでどのような火村の過去が明らかになるのか、そのあたりも注目です。
繭
本作のテーマともいえる「繭」の要素がなんとも印象的な一作ですね。
自分の弱い部分を包み込んでくれるもの。
癒しの象徴のような「繭」の存在が物語に切なさを付け加えてくれています。
ワンマン社長だった堂条秀一が逃げ込まずにはいられなかった「フロートカプセル」は、彼にとって「繭」のような存在。切ないですね。
そして物語中で語られるアリスの「繭」、火村の「繭」は、本作以降も続いていく「作家アリスシリーズ」で重要な位置を占める要素となりそうです。
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終わりに
これはおもしろかったですね。
犯人像がどんどん変わっていく謎解き要素もよかったですが、切なさあふれる物語、ラストシーンの余韻もよかったです。
サラッと読めるミステリーですので、ミステリー小説に慣れていない方にもおすすめですよ。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
つみれ
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