歴史

  (最終更新日:2019.01.25)

【感想】地味な人物を再評価!『三国志名臣列伝 後漢篇』/宮城谷昌光

宮城谷昌光の『三国志名臣列伝 後漢篇』(文藝春秋)を読了しました。

三国志の序盤。まだ劉備や曹操が書生や小役人であった時代に活躍した人物を列伝風に描いた一作です。

いや~、まず思ったのは、取り上げられている人物のラインナップがいかにも宮城谷さんらしく玄人好みだということ。

挙げてみると、何進(カシン)、朱儁(シュシュン)、王允(オウイン)、盧植(ロショク)、孔融(コウユウ)、皇甫嵩(コウホスウ)、荀彧(ジュンイク)の7名。

ゲームの『三國無双』シリーズ(コーエーテクモゲームス)でプレイアブルキャラクターに選出されているのは、かろうじて荀彧のみという潔さ。(2018年6月現在)

言い替えると、非常にマニアックだということです(笑)

有名な劉備や曹操、孫堅はほんの端役。

読者に媚びない感じがすばらしい!

さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:三国志名臣列伝 後漢篇

著者:宮城谷昌光
出版:文芸春秋 (2018/2/15)
頁数:320ページ

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玄人好みの三国志列伝風短編小説

私が読んだ動機

三国志が大好きで、宮城谷昌光さんが大好き。いつ読むの?今でしょ!

こんな人におすすめ

チェックポイント

三国志が好き

人物にフォーカスした歴史小説が好き

『三国志演義』ではなく正史よりの小説を読んでみたい

最近、三国志も人気が出てきまして、スマホのゲームなんかでもいろいろ出ていますね。

三国志ワールドは、主に歴史書である正史『三国志』と、歴史小説である『三国志演義』の2種類があると思っていいですが、特によく知られているのが演義由来のストーリーです。

有名な吉川英治『三国志』も演義由来のものです。

これら演義をルーツとする三国志ワールドをある程度まで楽しむと、必ず、

正史『三国志』ってどんな感じなんだろう・・・?

という疑問が頭をもたげてくる瞬間があるのです。

そんな時、宮城谷昌光の三国志世界はあなたを歓迎してくれるに違いありません。

本作は人物にスポットライトを当てた短編ですので、読みやすさも抜群です!

7人をフリーダムに紹介してみるよ

何進:秀吉クラスの大出世。本当に無能だったのか。

何進はもともと肉屋で、当時としてお世辞にもいい家柄とは言えません。

しかし、妹がすさまじいほどの美人で時の皇帝霊帝に寵愛されたことから、兄の何進も取り立てられ、トントン拍子に出世し、最終的には大将軍までのぼり詰めます。

まさに豊臣秀吉ばりの大出世といっていいでしょう。

三国志のストーリーが繰り広げられる後漢末期という時代は、宦官と外戚の権力闘争による混乱や政治腐敗で、非常にカオスな状態です。

宦官・・・去勢された官吏のこと。後宮(皇帝用のハーレム)の使用人や皇帝の相談役といった役割をもつ。

外戚・・・皇帝の妃や母親の一族のこと。日本でいうと自分の娘を天皇に嫁がせ権力を握った藤原氏などが有名。

このカオスな状態の原因は、基本的に宦官や外戚が頼りなかったり極悪であったりという説明がなされることが多いです。

何進は一般的に無能な成り上がり将軍として描かれることが多く、後漢の混乱を加速させた元凶とみなされがちな人物です。

まさに頼りない外戚の代名詞、これが一般的な何進のイメージ。

宮城谷昌光はそんな何進像を、この短編で一蹴します。

何進は、おのれの教養のなさ、素姓の卑しさを自覚し、外戚の威をむやみにふりかざさず、属官の意見をよくきいた『三国志名臣列伝 後漢篇』p.35

朱儁:狭量かつ小物。無能将軍の真実。

吉川英治『三国志』は、劉備や曹操など主役級の人物の活躍をわかりやすく脚色するために、他の人物をあえてどうしようもない人物に描くところがあります。

後漢末期の武将、朱儁もそんな印象操作によって多大なイメージダウンを被った一人です。

当時、中国では黄巾の乱という大規模な農民反乱が起こっていました。

その鎮圧に参加した劉備たちを正規兵ではないという理由で冷淡に扱ったと思いきや、ピンチになると一転、今度は劉備の戦力を当てにしてごまをすり始めるという絵に描いたような小物

それが吉川英治の描く朱儁(小説では「朱雋」となっている)です。

吉川版では、朱儁の面にヘドを吐きかけてやろうと思った、などと張飛に言われていて笑えます。

こんな狭量にして小物な将軍として吉川英治に描かれてしまった朱儁ですが、史実ではそんなイメージを吹き飛ばすほどの大活躍。

宮城谷昌光はこちらのカッコいい朱儁を描いています。

このやりかたは、将帥である朱儁が大功をひとりじめにするのではなく、七郡の太守に華をもたせただけではなく、乱を鎮圧できなかった交趾(コウシ)太守の罪を軽減することになったであろう『三国志名臣列伝 後漢篇』p.90

王允:ハニートラップ仕掛け人のイメージは覆るか。

王允は演義では下記のような活躍で有名です。

三国志の序盤に董卓という人物が登場します。

この董卓、大の極悪人で、それはもうここに書けないほどの悪逆非道ぶりを発揮しました。

また、三国志最強の武将と名高い呂布は董卓の義理の息子。

彼ら二人がタッグを組んでいるのですから、誰も手を出せません。

逆らったら殺されてしまうからです。

まずは董卓と呂布の仲を裂こう!と策略をめぐらしたのが王允です。

王允の養女に貂蝉という絶世の美女がいました。

董卓と呂布の仲を貂蝉の色仕掛けによって裂くという世にも恐ろしい策略です。(「美女連環の計」といいます)

美女を使って離間を図った王允の策略は『三国志演義』の創作。

どうしてもこのハニートラップ仕掛け人としてのイメージがあまりに強く、謀略家の烙印を押されがちな王允ですが、史実では「王佐の才(帝王を補佐する優れた才能の持ち主)」と評された高潔な人物です。

宮城谷昌光は、「王佐の才」王允の物語を描いています。

天罰は、天子と人民にかわって、われ独りがうければよい『三国志名臣列伝 後漢篇』p.154

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盧植:正義が勝つとは限らない。腐敗の時代の象徴。

盧植が極悪人というわけではありません。むしろ正義漢です。

朱儁とは違い、この盧植は吉川英治に贔屓され、かなりの好漢として描かれています。

この盧植、劉備の学問の先生であり、武将としても一流。まさに文武両道。

小説『三国志演義』でも、黄巾の乱鎮圧の将軍として武名をとどろかせましたが、ここで一つ事件が起こります。

軍営の視察に来た宦官が賄賂を求めてきたのを盧植が断ったところ、讒言され更迭。

囚人車で都まで送り返されてしまいます。これが後漢の腐敗よ!

この護送の隊列に劉備が出くわすのです。

かつての恩師盧植が無実の罪で捕えられ、罪人として送還されている。

『三国志演義』は、このシーンをもって読者に後漢という時代の腐敗を印象づけたのです。

宮城谷昌光は、盧植が学者レベルの見識を持つに至った経緯や、黄巾の乱鎮圧の将帥に選ばれた経緯など、演義以前を描いていて珍しいです。

自分で学び、調べもせず、わからないことをすぐに訊いてくるような弟子は、指導するにあたいしない『三国志名臣列伝 後漢篇』p.179

孔融:曹操の痛烈な批判者。吉川版では戦争反対論者。

孔融は『論語』で有名な孔子の子孫です。

吉川版『三国志』では正直、見せ場という見せ場はなく、登場シーンは大抵カッコ悪いという損な人物です。

西暦200年(関ヶ原の戦い=1600年レベルに覚えやすいです)、曹操と袁紹の明暗を分けた官渡の戦い前夜、戦うべきか否かで迷う曹操。

孔融さん
戦っても絶対勝てません!無理!
荀彧さん
戦うべきです!殿(曹操)と袁紹では格が違います!
袁紹を倒すのは今をおいてほかにありません!

 

結果は曹操の大勝利。吉川版では孔融は荀彧の引き立て役です。

西暦208年、三国志で一番有名な戦い、赤壁の戦いが起こります。

赤壁前夜、孔融は曹操を諫めます。

孔融さん
やめましょう。兵は死ぬし、民も苦しみます
曹操さん
だまればか

 

この後、孔融は仲の悪い同僚から讒言され、逮捕されて処刑されてしまいます。

吉川英治さん、いくらなんでもひどいでしょう(笑)

史実でも、曹操を痛烈に批判し処刑されるという点では変わりませんが、宮城谷昌光は後漢の忠臣として曹操を批判する気骨ある孔融を描いています。

他人の幸福のために努力するということは、努力しつづける時間を確保することが最優先です『三国志名臣列伝 後漢篇』p.229

皇甫嵩:大活躍したはずなのに。

西暦184年に起きた大規模な農民反乱「黄巾の乱」。

『三国志演義』や吉川版『三国志』では、劉備や曹操が黄巾賊討伐に大活躍をします。

しかし、その大部分は本当は皇甫嵩の実績なのです。

皇甫嵩の実績を劉備や曹操たちの実績として振り替えることで、主人公格に華を持たせ物語をおもしろくしようとしているのです。

だから皇甫嵩は、地味。

皇甫嵩の気分を顔文字であらわすとこうなるでしょう。

o(゚Д゚≡゚Д゚)?

黄巾の乱鎮圧で大活躍した後漢の名将といえば、盧植、朱儁、そして皇甫嵩です。

この3名のなかでも抜群に地味。それが皇甫嵩です。

o(゚Д゚≡゚Д゚)?

宮城谷昌光は、指揮官として優れていて、性格も爽やかな「名将」皇甫嵩を描いています。

皇甫嵩、きみはもう地味じゃない!

o(゚Д゚≡゚Д゚)?

要するに、敵に慕われるほどの将にならなければ、本物の勇将ではないということであった『三国志名臣列伝 後漢篇』p.274

荀彧:曹操の女房役として有名な「王佐の才」。

本作に登場する7名のなかでは、抜群の知名度を誇る荀彧。

若いころから王を補佐する優れた人物「王佐の才」として知られ、その頭脳は失策ということを知りません。

荀彧は、曹操の幕僚として数々の優れた献策を行ったことで有名です。

『三国志演義』でも、「二虎競食の計」「駆虎呑狼の計」などを発案し、その策略家ぶりを大いに発揮しています。

最初は、なぜ本作に荀彧が取り上げられたのか不思議でした。

しかし、宮城谷昌光は、曹操の幕僚としての荀彧ではなく、後漢の名臣としての荀彧を描いて見せたのです。

この視点で荀彧を描くというのは、彼の魅力をほぼ封印することになるのでは、と危惧していましたがそこはさすがの宮城谷昌光です。すばらしい短編に仕上がっています。

しっかりとわたしについてきてください『三国志名臣列伝 後漢篇』p.333

 

☟ 関連記事

終わりに

さすがの宮城谷昌光です。

『三国志演義』属性に頼ることなく、ここまでおもしろく三国志を書けるとは。

上でも書きましたが、人物を中心に描いた短編集となっていますので、史実をベースにしながらもなかなか読みやすいと思います。

いやあ、おもしろかったなー。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

つみれ

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