こんにちは、つみれです。
このたび、坂上泉さんのミステリー小説『インビジブル』を読みました。
第164回直木賞候補作にノミネートされた作品で、大戦後、大阪で起きた連続殺人事件に挑む刑事たちを描いた長編ミステリーとなっています。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼第164回直木賞候補作をまとめています。
作品情報
書名:インビジブル
著者:坂上泉
出版:文藝春秋(2020/8/26)
頁数:352ページ
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目次
刑事バディが戦後大阪の闇に切り込む!
私が読んだ動機
第164回直木賞候補作にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 警察もの、バディものが好き
- 裏社会の事情に興味がある
- 大戦中、大戦直後の世相や事件について知りたい
- 直木賞候補作が読みたい
あらすじ・作品説明
まだ大戦の爪痕が残る昭和29年、大阪城付近でとある政治家の秘書が頭を麻袋で覆われた状態で殺されているのが見つかった。
若手刑事の新城は、帝大卒のエリートでありながら融通の利かない警察官僚守屋と組んで捜査にあたることに。
組まされた当初こそ二人はいがみ合っていたものの、次第に互いの足りないところを補いあうようになっていく。
二人の活躍と連続猟奇殺人事件を軸に、戦後の大阪の闇の部分に切り込んだ長編ミステリー。
若手作家らしからぬ貫禄
今回直木賞候補作として本作『インビジブル』がノミネートされるまで、坂上泉さんという作家を知りませんでした。
本作を読んで思ったのが、まずもって若手作家(1990年生まれというのが本当に信じられない)の筆とは思われない貫禄・重厚さがあるということ。
平成生まれの作家でありながら、大戦中・大戦直後の大阪の雰囲気・臭いを濃厚に伝える物語を書いているのには驚かされました。
実際に経験していないはずの当時のダークな世相・空気感をこれほどリアルに活写できる筆力が単純にすごいと思いましたね!
調べてみると、作者の坂上泉さんは大学時代に近代史を専攻していたということで、本作のリアルで詳細な描写も納得!というもの。
自治体警察「自治警」と国家地方警察「国警」の違いなどの説明も詳しく、当時の警察機構を知らない私にとって、読んでいてとても勉強になったし、警察の歴史にも興味がわきましたね。
最近、私が大戦直後のほの暗さを感じさせる社会のムードに興味を持ち始めていることもあって、この雰囲気はとても興味深くおもしろかったです。
いや~、なんともすごい作家が出てきたなという印象です。
刑事バディもの
本作の主人公は、たたき上げで実力を上げてきた若手ノンキャリア組の新城と、東京帝大卒の知力と強力なコネを持つが実地捜査の経験が浅く杓子定規で空気が読めないキャリア官僚出身の守屋。
この二人が半ば強制的に組まされて連続猟奇殺人事件の捜査に当たるという典型的な刑事バディものです。
当初いがみ合っていた者同士が不器用ながらも徐々に相手を認めていき、お互いの足りないところを補い合いつつ一定の成果をあげていく様子は、月並みですが非常にアツい展開と言わざるを得ません。
新城も守屋も、個人的に複雑な事情を抱えています。
それらの事情が彼らの関係性にどのような影響を与えていくのかというところも本作の注目ポイントで、人間ドラマ的側面も持ち合わせた物語となっています。
キャラクターもいい
地味なポイントながら、キャラクターの描き分けが極めてうまいと思いました。
主役級の新城と守屋の二人にしても、大阪市警視庁内部のライバル警務部長と刑事部長にしても、対となるキーキャラクターの性格や言葉遣いがきっちりと分けられていて、読み間違いを起こさせない配慮を感じました。
また、新しいキャラクターが登場するテンポもちょうどよく、読む側に過度の負担を強いない親切設計です。
キャラを覚えるのが苦手な私にとってはこの点はとてもうれしく、極めて読みやすかったですね!
しいていうなら、実際に捜査を行う一般刑事たちの区別がややつきづらかったですが、物語の進行上、たいして問題にならなかったです。
また、物語の主となる舞台が大阪となっているため、登場人物の多くがコテコテの大阪弁をしゃべります。もう、マジでコッテコテ。
生粋の関東人である私は、読み始めこそ慣れない言葉遣いにとまどいましたが、読み進めるうちに気にならなくなっていきました。
それどころか、読後は、この大阪弁供給過多の会話は本作の魅力の一つであるとさえ思っています。
やっぱり方言というのは、登場人物の個性を強烈に引き出しますね!
ミステリーとして
大阪城の近くでとある政治家の秘書が頭を麻袋で覆われた刺殺体となって見つかるという、いかにも刑事ものといった導入部。
どちらかというと、謎解きを楽しむタイプのミステリーではなく、物語・世界観を楽しむタイプのミステリーですね。
物語としては、テンポがよく、緩急のつけ方が絶妙だと思いました。
物語の動きが停滞してきたな、と読者側が感じるタイミングで新しい事件が起きたり、新事実が発覚したりなど、飽きさせない工夫がなされています。
そういう意味で、燃料投下のタイミングがうまく、私は続きが気になってどんどん先へと読み進めていってしまいました。
また、各章の冒頭で満州開拓団ゆかりの謎の人物について語られるシーンが差し挟まれるのですが、これが怪しさと不穏さに満ちていてとてもよかったです。
一見、この謎の人物の行動は本編と関係なさそうに見えるのですが、物語的にどこかで関係してきそうなことは予測がつきます。
この謎の人物の物語が宙ぶらりんのまま本編が進行していくのも、先が気になるつくりになっていて巧いと思いました。
物語終盤では、「そこがそう繋がるのね!」という見事な伏線回収もあり、ミステリーとして満足度の高い一冊でした。
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終わりに
これはめちゃくちゃおもしろかった!
正直、若手作家でここまで昭和中期のダークな空気感を描写できるのはすごいな、と思わされっぱなしの読書でした。
また、新城と守屋のやりとりも人情ものの風味があってとてもよかったですね。また、この二人が活躍するお話を読んでみたいです。
本記事を読んで、坂上泉さんの刑事小説『インビジブル』を読んでみたいなと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
▼第164回直木賞候補作をまとめています。
つみれ
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