歴史

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『花鳥の夢』/山本兼一:天才絵師狩野永徳の生涯を活写!

こんにちは、つみれです。

山本兼一さんの『花鳥の夢』(文春文庫)を読みました。

戦国末の絵師「狩野永徳」を主人公に据えた小説です。

なんだか、はるか昔に歴史の授業で「狩野派」がなんたらかんたら~とかやった記憶がありますね。

私、常日頃から歴史好きを公言してきましたが、実は文化史が苦手分野でして、今までもあまり美術史的な小説などは読んできませんでした。

文化史はストーリーがないような気がして、正直楽しめるとは思っていなかったんです。

正直、本書も本当に楽しめるかな~なんて思いながらページをめくりましたが、すみません!おもしろかったです!

 

文化史にストーリーがないとか思っていた自分をぶん殴りたいです。

 

それでは感想を書いていきます。

作品情報
書名:花鳥の夢(文春文庫)

著者:山本兼一
出版:文芸春秋 (2015/3/10)
頁数:354ページ

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絵師・狩野永徳の人生を活写

私が読んだ動機

読書会で紹介され、手に取りました。

普段なら手に取らないような本でも、紹介者さんたちのセールストークがうますぎて、ついつい読みたくなってしまう。それが読書会です。

読書会とは本や読書について語り合うイベントです。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 狩野永徳に興味がある
  • 美術史が好き
  • 才能ある人間の悩みや葛藤の物語を読みたい

「狩野派で有名な人物を挙げなさい」と言われたら、誰の名前を挙げるでしょう?

狩野永徳!!という人が多いのではないでしょうか。

私もそのうちの一人です。

しかし、狩野永徳の描いた作品を挙げなさい!と言われると、私は「むむむ・・・」となります。

同時代の人物である織田信長や豊臣秀吉の実績を混同することはなくても、狩野永徳と狩野探幽の作品はどれがどっちだかわからない!なんて方も多いことでしょう。

私など、絵のことがまったくわからないので、狩野派と土佐派の見分けすら付きません。(勉強不足ですみません・・・)

このような体たらくぶりなので、狩野永徳の人生を描いた本作『花鳥の夢』は、ほとんど何も知らない世界のお話!

本作を楽しむためにあえて勉強しなかったんですよ☆というくらい新鮮な気持ちで楽しむことができましたね。(プラス思考)

ストイックな狩野永徳

若い頃から将来を嘱望され英才教育を施されてきた永徳は、絵を描くことに対してとにかくストイックです。

単純に絵を描くことが大好きだということもあるのですが。

しかし、それ以上に、狩野家の当主として一門を率い、常に「狩野の絵」を描くことを求められる永徳の絵に対する姿勢は、もはや情熱というより呪縛といったほうが近いのではないかとさえ思いました。

そういった姿勢が、自分の絵に向かうときの彼の姿はまさに「ストイック」。

そして、それが永徳の父の絵の技術の拙さに向かうときは「軽蔑」に。

ライバルである長谷川等伯の絵の見事さに向かうときは「嫉妬」に。

狩野永徳は、これらの強い感情がないまぜになったちょっと近寄りがたい人物として描かれていたように思います。

しかし、自分の得意分野で本気で仕事をしている人間のストイックさや、覚悟の足りない者に対する軽蔑心、ライバルに対する嫉妬心などは、なんとなくわかってしまうというか共感してしまうんですよね。

特に、軽蔑心や嫉妬心に関しては、「自分にもそういうところがあるかもしれない」と考えさせられる描写が多かったです。

いやー、わかってしまうほどつらいんですよね。こういう感情の描写は。それだけ描き方がうまいということでもありますが。

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洛中洛外図

「花の都を描くがよい。風雅な伝舎が建ちならぶ都だ。花が咲き乱れ、人々が祭りを楽しむ京の町だ。わしがこれから造る洛中洛外のすべてだ」<span class="su-quote-cite">『花鳥の夢』kindle版、位置No. 446</span>

これは時の将軍足利義輝が永徳に向けて言ったセリフですね。

義輝から依頼をうけ、永徳は「洛中洛外図」を描くことになります。

それも、戦乱で荒廃したありのままの京都ではなく、在りし日の雅やかで賑やかな「花の都」京都の絵です。

永徳の絵の技術と狩野家に伝わる技法を結集してとりかかる大事業といっていいでしょう。

物語の序盤はこの仕事と格闘する永徳の姿が活写されています。

しかし、私が興味を持ったのは「洛中洛外図」そのもの。

私、本作を読むまで知らなかったのですが、洛中洛外図というのは、ひとつの画面のなかにいろいろな季節のイベントが盛り込まれているんですね。

北山にある鹿苑寺金閣ならば、雪が似つかわしかろう。北野の天満宮ならば、梅が欠かせないし、枝垂桜で名高い近衛屋敷には桜の絵を描きたい。下京には、ぜひとも祇園会の山鉾をいくつも描きたいし、鴨川には水遊びをする人々を描きたい。(中略)しかし、雪景色の横で桜を咲かせるわけにはいかないし、夏の祇園会のとなりに左義長を描くわけにもいかない。<span class="su-quote-cite">『花鳥の夢』kindle版、位置No. 446</span>

ここ!私がおもしろいな~と思ったのはここなんです。

一画面で春夏秋冬の京都を表現するにしても、夏のイベントと冬のイベントを隣り合うように配置するわけにはいかないという絵師ならではの理論。

なるほど!そういう配慮があるのか!と思いましたね。

絵のなかにストーリーを込めているというのがものすごく伝わってきて、なんだかものすごく感動したんですよね。

こういう知識が増えるのがおもしろくて、読書はやめられないのです。なーんつってな☆

長谷川等伯

「狩野の絵」は永徳を当世最高といっていいほどの絵師に成長させました。

一方、「狩野の絵」は永徳を「狩野らしい絵」という世界に縛り付けた側面があります。

――絵は端正が第一義。それが狩野家に伝わる暗黙の画法である。<span class="su-quote-cite">『花鳥の夢』kindle版、位置No. 134</span>

だから、もがき苦しむ鳥の絵は、狩野の絵師が描くべき画題ではないという。

狩野家の立場からすると、外道とされる絵になるという。

本来、絵は何を描いてもいいはずなのに、狩野家の立場がそれを許さない。

永徳は必死に自分に言い聞かせ、「狩野の絵の正しさ」、「端正で品格のある絵の正しさ」を信じ込もうとするのです。

それはときに「本当に描きたい絵」から目を背けることを意味するのですから、永徳にとってはつらいはず。

そこに、そんなしがらみに束縛されない自由で才能のある絵師「長谷川等伯」が登場するのです。

等伯は、家柄に縛られない自由な絵で評価を受けるなど、永徳が持っていないものを手に入れた絵師として描かれます。

この間の永徳の嫉妬心、そこからくる無力感などが丁寧な筆致で描かれているのですが、読んでいて心が苦しくなってくるほどリアリティがあります。本書の見どころの一つとも言える箇所です。

じつは、この長谷川等伯ですが、安部龍太郎が小説『等伯』というストレートな作品を書いていて、読書会ではこれも同時に読むとおもしろいと紹介されました。

少し調べてみたのですが、本作『花鳥の夢』とこの安部龍太郎『等伯』はほぼ同じ時期に描かれています。

さらに山本兼一と安部龍太郎もほぼ同年代ということで、まさに作中の人物だけでなく、この両作家、両作品の視線を比較しながら読んでみると、一層楽しめそうですね。

私はまだ安部龍太郎『等伯』は読んでいませんが、近いうちに読んでみたいなと思っています。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

終わりに

本作『花鳥の夢』に描かれる狩野永徳は、お世辞にも親しみやすい人物ではありません。

それでも仕事で悩んだり、他の絵師の作品の見事さに嫉妬したり、妙な人間くささがあって共感してしまう部分があります。

強い感情に振り回される作品なので、読んでいて疲れてしまいますが、それだけ人間の心の繊細な部分に迫ったすばらしい小説ということができるでしょう。

それにしても、絵の世界はおもしろいですねえ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

つみれ

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