こんにちは、つみれです。
このたび、山本文緒さんの『自転しながら公転する』を読みました。
東京の仕事を辞めて地元に戻ってきた主人公の都が、様々な立場の人とかかわりあいながら自分の幸せを追求していく長編小説です。
また、2021年本屋大賞にノミネートされた作品でもあります!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
作品情報
書名:自転しながら公転する
著者:山本文緒
出版:新潮社(2020/9/28)
頁数:480ページ
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目次
幸せを追求して悩む女性を描く!
私が読んだ動機
2021年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 「幸せ」がテーマの小説を読みたい
- 等身大の悩みを持つキャラクターが好き
- いろいろな考え方の登場人物を味わいたい
- 本屋大賞ノミネート作品が読みたい
あらすじ・作品説明
東京で働いていた与野都はとある事情から実家に帰り、地元のモールのアパレルショップ店員として働き始める。
都は仕事・恋愛・結婚・家族のことなど様々な問題を抱える。
いろいろな立場の人と関わりあっていくなかで、都は幸せとは何かを考えていく。
主人公は悩める一人の女性
本作『自転しながら公転する』は、「幸せとは何か」をテーマにした長編小説です。
主人公の都は32歳の女性。
都は東京での仕事を辞め、地元・茨城県牛久のモールに入っているアウトレットのアパレルショップで店員として働き始めます。
彼女は仕事・恋愛と結婚・両親との関係・収入とお金の問題などに悩みながら、自分の幸せのあり方を模索していきます。
もう一人の主人公
本作は基本的に都の視点から描かれるのですが、ときどき別の人物の視点の物語が差しはさまれます。
その語り手が、主人公都の母親である桃枝です。
桃枝は普通の専業主婦ですが、物語開始時点で更年期障害の症状に悩まされています。
桃枝の体調の悪化が、娘である都が東京から地元に戻ってきた理由の一つです。
桃枝は更年期障害という悩みを抱えながら、それと並行して夫や娘との付き合い方・老後に向けた生活についてなどにも悩まされます。
娘の都とは世代も立場も異なりますが、彼女もまた一人の女性として自分の幸せを追求しているという意味ではもう一人の主人公と言っても過言ではありません。
社会人生活が板についてきた都の世代とその親の世代それぞれが抱えがちな悩みについて、両者の目線で描かれていて珍しい作品だと思いました。
「幸せとは何か」がテーマ
本作のテーマは「幸せとは何か」です。
「幸せ」とは立場や価値観によって変わるものなので、「これが正解」というものはありません。
一昔前、女性の幸せは「結婚・出産して安定した生活を手に入れること」みたいに言われがちだった時代もありましたね。
私は必ずしもそうだとは思いませんし、むしろそういった考え方に縛られることには窮屈さすら感じます。
本作の主人公都は、特に物語序盤で顕著なのですが「他人が決めたような、一般的によく語られるような幸せ」に縛られ、自分が周りから幸せに見えるかどうかばかりを気にしています。
自分の幸せについて、他の人の意見や視点に左右されがちで主体性がないのです。
そして、本作にはいろいろな考え方を持った多種多様なキャラクターが登場します。
当然、彼らは「幸せ」に対する考え方や尺度が一人ひとり違っていて、都の幸せ観に影響を与えます。
このバラエティに富んだキャラクターたちの幸せ論・幸せ観とぶつかることによって、都の考え方がどのように変わっていくのかを味わうのが本作の醍醐味です。
バラエティに富んだキャラクター
上にも書いた通り、本作にはいろいろな立場・いろいろな考え方を持ったキャラクターが登場します。
都から見れば、親・恋人・友人・同僚・上司・昔の仕事仲間などなど。
それらのキャラクターたちがそれぞれ自分の「幸せ観」を持っていて、都に影響を与えてくるんです。
登場人物たちはみんな幸せに対する価値観が違うから、ときに議論をし、ときに衝突をします。
そういう彼らのやりとりを追っていくうちに、思わず本を読んでいる私も「本当の幸せって何だ?」と思ってしまう瞬間があるんですよ。
一般的に幸せと言われるような人生のテンプレート的な生き方をなぞるように生きるのが幸せなんでしょうか。
自分と他人の人生を比較して自分のほうが優れていると思い込んで生きるのが幸せなんでしょうか。
他人に迷惑をかけてでも自分のスタイルを貫いて生きるのが幸せなんでしょうか。
本作には上記の幸せパターンに当てはまるキャラクターがそれぞれ登場しますが、どれが一番幸せかと聞かれると難しい問題ですね。
本当にいろいろなキャラクターが登場するので、近い考え方のキャラもいれば、到底受け入れられない考え方のキャラもいると思います。
個人的には都の幼なじみの「そよか」のキャラが良かったですね。
反対に、都に恋人がいるとわかっていながら彼女に近づいてくるベトナム人ニャンは最後まで好きになれませんでしたね。(ニャンについては、作者の山本さんに魅力的に描くつもりがない印象を受けました)
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自転しながら公転する
『自転しながら公転する』、不思議なタイトルですよね。
これは太陽を中心に回る軌道を描きながら、自分自身もコマのようにくるくる回っている地球の活動のことを表している言葉ですが、物語中では別の意味を含んでいます。
これは、本作のなかでは都の恋人である貫一が、あれこれと悩んでいる様子の都に対して若干のからかいを込めながらかける言葉。
「元気ねえな、おみや。また自転公転してんのかよ」 『自転しながら公転する』kindle版、位置No.1402
今この瞬間を楽しむ刹那的な幸せと、自分の人生を長期的に捉えた将来の幸せを天秤にかけ、どちらに力点を置くべきか悩みに悩みぬいている都を見て、貫一はこのように表現しました。
正直なところ、貫一との現在進行形の恋愛を楽しみながら、一方で貫一とこれから一緒に居続けることが自分の幸せに繋がるのかを冷静かつ打算的に計算してしまう都の姿に嫌悪感を抱いてしまう部分もありました。
しかし、程度の差こそあれ、こういうことを天秤にかける考え方をしてしまうのは人間ならだれしも経験したことがあると思います。
私が感じた嫌悪感も、おそらく自分にも心当たりがある言動だからではないかなと思いましたね。
「人生の正解」を追い求めて悩み抜いてしまう都。
その姿にイライラさせられながらもつい共感してしまうという人も多いのではないでしょうか。
明日死んでも悔いがないように
将来のことを考えすぎると今が苦しくて、今を楽しみすぎると将来が不安。
どうバランスをとったら「幸せ」なのか、考えれば考えるほどよくわからなくなってきますね。
本作の主人公の都も、「幸せになること」への強迫観念・呪縛にとらわれ過ぎています。
極端に言ってしまうと、幸せを追求しすぎるあまり不幸に見えるキャラクターです。
「明日死んでも悔いがないように、百歳まで生きても大丈夫なように、どっちも頑張らないといけないんだよ!」 『自転しながら公転する』kindle版、位置No.6119
終盤、主人公の都がとある店で食事をしているときたまたま居合わせた酔っ払いが叫んだ言葉です。
「それができたら苦労しないよ」とツッコミたくなる酔っ払いの発言ですが、都はここに自転と公転の「落としどころ」を見るのです。
価値観の違いによって幸せの形は変わってきます。
いろいろな登場人物の様々な「幸せの定義」を見せつけられる物語だけども、最終的には幸せ成分の比率を「今」と「将来」とに振り分けるバランスはその人次第。
当然、幸せに絶対的な正解はないのだというメッセージが込められている気がしましたね。
アパレル用語が難しい
本作、基本的に文章がわかりやすくて読みやすいです。
しかし唯一、アパレル用語が難しくてスッと意味が入ってこない箇所が多々ありました。
本作は主人公の都がアパレルショップ店員ということもあってアパレル用語が登場します。
私が無知なだけかもしれませんが、特定の業界の専門用語は文章のなかで説明があると助かるなと思いました。
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終わりに
これはかなりおもしろい作品です。
みんな幸せになりたいという根っこの部分は同じなのに、それぞれの価値観によって行動がここまで変わってくるか!と改めて驚かされる一冊でしたね!
本記事を読んで、山本文緒さんの長編小説『自転しながら公転する』を読んでみたいと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
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