キャプテンサンダーボルト

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『キャプテンサンダーボルト』/阿部和重・伊坂幸太郎:名言いっぱい!

こんにちは、つみれです。

このたび、阿部和重さん、伊坂幸太郎さんの共作『キャプテンサンダーボルト』を読みました。

伊坂幸太郎さんの小説は定期的に読みたくなるので、私にとっては新作の情報が出るととりあえずチェックしておくお気に入り作家の一人です。

本作は2014年に単行本として出版されましたが、2017年11月に文庫化され、私が読んだのはこの文庫版です。上下巻あります。

私は阿部和重さんの作品は読んだことがありませんでしたが、本作は伊坂幸太郎作品のノリそのままといった感じなので、伊坂好きの私にとっては違和感なく読み進めることができました。

それではさっそく感想を書いていきます。

ネタバレ感想は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:キャプテンサンダーボルト (文春文庫)

著者:阿部和重・伊坂幸太郎
出版:文春秋 (2017/11/9)
頁数:(上)334ページ、(下)304ページ

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いい意味で伊坂節全開!

スリル感とスピード感あふれるノンストップサスペンス

私が読んだ動機

もともと伊坂幸太郎さんの大ファンなので、いつか読もうと決めていた本だったのです。

文庫化されたばかりだったので、書店で平台展開しているのを見かけて購入しました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • エンタメ小説が好き
  • スリルとスピード感を味わいたい
  • 謎や伏線を楽しみたい
  • 名文・名言(伊坂節)に酔いしれたい

阿部和重・伊坂幸太郎の共作

冒頭でも書きましたが、本作『キャプテンサンダーボルト』は阿部和重さんと伊坂幸太郎さんの共作です。

共作は楽しみである反面、正直言ってちょっと怖いと思うところもあります。

お互いの個性が化学反応を起こして「いいとこどり」になっていればいいけれど、逆にお互いの個性を殺しあってしまったら・・・なんて心配してしまうんですよね。

ただ、本作に限ってはそれは杞憂でした。

私は阿部さんの作品は読んだことがないので阿部作品の作風はわかりませんが、本作はいい意味で伊坂節全開の物語だったからです。

事前に共作だと知っていなければ、伊坂幸太郎単独の作品だろうと勘違いしてしまうレベルです。

共作だからこその違和感とか、ブツ切りになってしまっている感などは微塵も感じられず、自然に物語に入っていくことができたので良かったと思います。

登場人物の魅力

本作は魅力的なキャラクターがたくさん登場します。私流に紹介してみましょう!

主人公コンビ(相葉時之と井ノ原悠)

本作の主人公は相場時之と井ノ原悠のコンビで、彼らは正反対の性格をしています。

物語上でコンビとなるキャラクターたちは正反対の要素を持たせると魅力がより映えますよね。たとえば、下記のような感じ。

  • 真面目と不真面目
  • 熱血とクール
  • 猪突猛進と冷静沈着

パターンは無数にありますね。

相葉と井ノ原も見事に正反対の性格をしています。

相葉が不真面目、不良。井ノ原が真面目、優等生。典型的でわかりやすいですね。

この二人はすでに30歳手前の立派な大人なのですが、子供の頃からの幼馴染みで同じ野球チームの仲間でした。

全てにおいて正反対というわけではなく共通している部分もあり、それが、幼少期、二人して戦隊もの「鳴神戦隊サンダーボルト」の大ファンだったということ。

性格や境遇は正反対でありながら、この一点においてのみ共通しているということが、二人の友情の強さを引き立たたせています。

同じものを好きになり、理解しあったからこその熱い友情。

再会した現在でもお互いに口では相手の文句を言ったりしているけれど、心の奥底で信頼しあっているというのが読む側に伝わってきます。こういう友情はいいですね。

桃沢瞳

桃沢瞳はいちおう本作のヒロインということになるのでしょうか。

セクシー担当と言ってもいいかもしれません。色仕掛けで男から情報を引き出す特殊能力を持ちます。くノ一かよ

冒頭の一文「ガイノイド脂肪に注目しろ!」には衝撃を受けた。メロスは激怒したクラスですね、これは。

小説を読んでいて最初の単語でいきなり検索させられるとは思わなかったですが、いや、しかしすばらしいですね。ガイノイド脂肪

ポンセ

ポンセはとある事情で相葉が世話しているカーリー犬です。

具体的に言うと名前は判然としないのですが、「昔の、プロ野球の助っ人外国人の名前だったはず(上p.151)」ということで途中からはポンセと呼ばれています。

私が野球に疎いので、そのくだりはよくわからなかったですがね。

犬という特性を最大限に生かして大活躍します。なかなか感情が豊かでいいキャラです。

銀髪の怪人

銀髪の怪人は屈強な肉体と銀色に近い白髪を持つ本作の敵役です。

伊坂作品によく登場するちょっと手に負えない系の凶悪な武闘派キャラ。

身体能力が極めて高く、日本刀などの物騒な武器を軽々と振り回す、一言でいうとヤバい奴です。

外国人なので、相葉や井ノ原とは言葉による意思の疎通ができないのですが、これがすばらしい個性になっています。

どういうことかというと、銀髪の怪人はスマートフォンの音声アプリを使って意思疎通を図ってくるのです。

「です、ます」口調で翻訳されるので、これが無機質で不気味な怖さを演出するのに一役買っています。

性格に関しては伊坂作品には珍しいタイプかも。ここが阿部属性なのかなあ。とてもいいキャラクターだと思います。

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スリルとスピード感で心を掴まれる

序盤の物語を簡単に紹介してしまいましょう。

少年時代に同じ野球チームの仲間だった相葉と井ノ原はやがて成人し、すっかり疎遠になってしまっていましたが、とある場所で偶然再会します。

二人はそれぞれの事情でお金を必要としていたので、大金を手にしたい一心でなし崩し的にタッグを組むという流れになっていきます。

再会シーンからして伊坂節全開というか、ヤバい敵「銀髪の怪人」に追われている相葉が偶然再会した井ノ原に逃走の手助けをさせるというものです。

「あなたはゴシキヌマ水を持っていますか?」

スマートフォンの音声アプリを介して丁寧語で話しかけてくる銀髪の怪人がもう本当にヤバいです。

終始この勢いです。スリル感、スピード感抜群の映像的なストーリーが魅力的!

常にこの後どうなるの!?とハラハラさせてくれますので、自然とページをめくる手も早くなるというものです。

謎、伏線がたくさん

沼

伊坂幸太郎さんは巧妙な伏線を仕掛ける名手です。(阿部作品は未読でわからず。すみません)

序盤から気になる要素がてんこ盛りです。少しだけ以下に挙げてみましょう。

  • 戦時中のB29の不可解な墜落
  • ゴシキヌマの水
  • 村上病の謎
  • テロ組織の存在

謎が謎を呼ぶというか、ひとつの謎が解決する前に別の謎が矢継ぎ早に登場するので、最終的にどうやってこれらを着地させるのだ、ということになります。

これが読む側を飽きさせないんですね。

 

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【ちょっとだけネタバレ感想】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

この小説を読んで思ったこと(若干ネタバレ含む)を筆(というかキーボード)にまかせて書いてみるよー。

本作に登場する「名言」もネタバレ要素を含むのでこの中で紹介しています。

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

・えっ、ピンクじゃないの?

私は以下の箇所に付箋を貼りました。

戦隊ヒーローもの、と呼ばれるそのテレビ番組は、赤青黄緑ピンクの五種類の色を、五つのコスチュームに振り分け、それを着た五人のヒーローたちがチームとなって悪役と戦う(中略)テレビシリーズの一つだ<span class="su-quote-cite">上p.95</span>

もう絶対に桃沢瞳がピンク担当だと思ったからです。

物語中盤に「鳴神戦隊サンダーボルト」のサンダーレッドこと赤木駿が登場したときには確信に満ちた不適な笑みを浮かべたものです。

読み終わった今となっては茶番です。

絶対桃沢はピンクになる!間違いない!とおもったのになあ。

さらわれているから桃沢はピーチ姫だったか。

・も、もしかして?

伊坂作品の例にもれず、伏線が序盤から張られまくっていますが実はちょっと弱い気がしました。

勘のいい人は気づいちゃうぞ、くらいのレベルだと思うのです。

実のところ、私にしては珍しく肝心の「村上病の謎」には早いうちに気づいてしまいました。

・名言6選!

伊坂作品といえば、名言!以下に気に入った6つの名言を挙げてみます。

やって批判されるよりは、やらないで知らんぷりだ<span class="su-quote-cite">上p.80</span>

がんばる社会人ほど世の中の理不尽を痛感する一節。

できる人間ほど仕事が集まるから、その分失敗のリスクも高まる。

そんなとき、知らんぷりを決め込み、減点の可能性をひたすらに回避しようとする「我関せず」的人種の世渡りのうまさを逆説的に糾弾する名言。

見ている人は見ているんだぜ!

 

暗く、細長く、不安に満ちたトンネルの中で正気を保っていられるのは、それがいずれ出口に繋がると信じているからだ<span class="su-quote-cite">上p.167</span>

文字数を調整すれば歌詞になりそう。

というかもうなっていそう。

トンネルというのは不安の象徴なんだなーと思った。

 

マーフィーの法則にもある。

人生で楽しいものは、違法か、反道徳的か、もしくは太りやすい<span class="su-quote-cite">上p.305</span>

コピー機を使った「情報収集」の仕組みを桃沢に解説したあとに、その違法性を指摘された時の井ノ原の名セリフ。

桃沢が愛想笑いで返すのがシュール。

 

真剣白刃取りのブロックサインはなかったよな<span class="su-quote-cite">下p.75</span>

日本刀を振りかざすヤバい敵と対峙したときの相葉のセリフ。

緊迫した状況でこそおちゃらけてしまう伊坂節の本領発揮。

 

客先から出されたスケジュールをそのまま受け入れると、大変なことになる。

一度目は突き返せ<span class="su-quote-cite">下p.88</span>

井ノ原が仕事のなかで学んだ鉄則。

駆け引きの重要性をこれでもかと突き付けてくる名言。

ヤバい奴と相対しているときにポロっと出てくるところが伊坂テイスト全開。

 

全力で駆けた。

何もかも、後ろに置き去りにしてやりたかった<span class="su-quote-cite">下p.215</span>

本作ナンバーワンにかっこいいベストオブ名文。なんだこれ、惚れるわ。

終わりに

物語としてはスリルあり、スピード感あり、伏線の回収もありで実に楽しめるエンターテイメント作品といっていいです。

ただ、阿部和重・伊坂幸太郎の共作という部分を前面に出しすぎている感は否めず、そこに期待しすぎると評価は分かれるのかも知れないですね。

単に私が阿部作品を未読というのもあるかも知れませんが。

ちょっともったいない読み方をしてしまったかなあ。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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つみれ

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