こんにちは、つみれです。
このたび、阿津川辰海さんのミステリー短編集『透明人間は密室に潜む』を読みました。
収録作品4編ともにオリジナリティにあふれ、バラエティに富んだすばらしい一冊です!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:透明人間は密室に潜む
著者:阿津川辰海
出版:光文社(2020/4/22)
頁数:300ページ
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目次
バラエティ豊かな本格ミステリー短編集!
私が読んだ動機
読書友達におすすめしてもらいました。
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーが好き
- 特殊な設定や超常現象を利用したミステリーが好き
- ハイレベルなミステリー短編集が読みたい
あらすじ・作品説明
本書には下記の4つのミステリー短編が収録されています。
- 透明人間による不可能犯罪を描いた表題作「透明人間は密室に潜む」
- 裁判員が全員アイドルオタクという異色の法廷ミステリー「六人の熱狂する日本人」
- 異常に耳がいい探偵事務所メンバーが録音された音源から謎解きのとっかかりを掴んでいく「盗聴された殺人」
- リアル脱出ゲームのイベント中に行われる拉致監禁事件を描いた「第13船室からの脱出」
いずれもオリジナリティにあふれ、バラエティに富んでいる珠玉の4編です。
4編全てハイレベル
本短編集のすごいところは、収録作4編が全部ハイレベルであることです。
4編それぞれが完全独立した短編になっていて全く別の趣向が凝らされています。
例えば、透明人間になってしまう病気が蔓延している世界だったり、登場人物の一人が異常に耳が良くてその能力を犯罪捜査活かしたりなど、特殊な設定が光っていました。
長編作品としても成立しそうな魅力的な設定を4編それぞれに惜しげもなく盛り込んでいて、短編であることにもったいなさすら感じたほどです。
言ってみれば、4編すべてが全力投球!
オリジナリティにあふれ、バラエティに富んだ作品が収録されていますので、きっとお気に入りの一作が見つけられますよ。
珠玉の4編
本作『透明人間は密室に潜む』は、収録作4編が全て異なる趣向で読者を楽しませてくれる一冊になっています。
各編を簡単に紹介します。
透明人間は密室に潜む
収録作の1作目は「透明人間は密室に潜む」。
全身が透明人間になってしまう「透明人間病」が蔓延した世界が舞台の特殊設定ミステリーです。
本作のおもしろいところは、透明人間は服を着たり化粧をしたりすることで「非透明」状態で生活することが義務付けられているということ。
つまり透明のまま出歩くこと自体が罪の対象になってしまうのです。
この設定がすばらしい。
また、「透明人間病」の特徴が下記のようにきちんと定義されているんです。
- 光を透過させることが出来る。透明になれば、いかなる方法でも視認することは出来ない。
- 光学的意味合いを除外した物理的存在としてはそこにある。ゆえに、壁を通り抜けることなどは出来ない。
- 自分以外のものを透明にする技術は存在しない。透明人間病は感染しないため、他人を透明にすることも出来ない。
このように「透明人間病」の特徴が明確に定義されていることによって、その制約下でのミステリーがしっかりとおもしろくなっています。
また、登場人物全員が「透明人間が社会に存在していることを前提とした物事の考え方」をしていて、正直、これを追うだけでも楽しい。
動機もまたこの設定からくるユニークなもので、よくできているなあと感心してしまいました。
本作はスタイルとしては倒叙形式のミステリーになっていて、犯人は最初に読者に明かされます。
そのうえで、物語の語り手が探偵側と犯人側とを行き来するように切り替わるという仕掛けになっていて、読み手はその攻防を楽しむといった具合です。おもしろいですね!
六人の熱狂する日本人
三人の裁判官と六人の裁判員が法廷内である殺人事件について話し合う裁判員裁判法廷ミステリー。
と聞くと、かなりマジメでお堅いミステリーを想像してしまいますが、実は集められた裁判員たちにはある共通点があったのです。
彼ら裁判員メンバーは皆あるアイドルグループのファンで、本来なされるべき議論そっちのけでアイドルについて主張しまくります。誰か止めろ。
議論が進んでいくにつれて次第に醸成されていく一体感、私は何を見せられているのだというカオス感がめちゃくちゃおもしろいです。
正直、先の展開は読めてしまうのですが、本作においてはそれはたいした問題ではありません。
あくまで、アイドル好きたちが裁判員裁判の場に似つかわしくない会話を大真面目に繰り広げている馬鹿げた感じを楽しむ作品です。
私は大笑いして読みました。
登場人物たちのやりとりのインパクトが強いのであまりそうとは感じさせないのですが、しっかりとミステリーになっていて、話の筋自体はかなり論理的。
結末に至るまでの展開が綿密に練り込まれていて、ミステリーとしても大満足の一編です。
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盗聴された殺人
とある探偵事務所のメンバー二人が音を手掛かりに謎を解いていくミステリー。
メンバーの一人、山口美々香は推理力・分析力に欠けるものの、異常にいい耳を持っていて常人には感知できない音による情報を収集できる特殊能力の持ち主。
もう一人の大野糺は、持ち前の推理力で限られた情報から真相を突き止めていく王道の探偵キャラ。美々香の集めた情報を総合的に分析していく立ち位置。
異なる特徴を持つ美々香と大野とで語り手を交互に担当するのが本作のスタイルです。
同じ語り手交代系でも「透明人間は密室に潜む」は敵味方の代わりばんこだったのが、本作は味方同士の代わりばんこ。
いろいろな趣向が楽しめて、まさに実験的な一冊!
いいですねえ。
美々香と大野とがお互いの足りないところを補い合っているコンビ感がとにかく良くて、これがノンシリーズ作品であることがもったいないと思ってしまうほど。
本短編集のなかでは一番地味と言えるかもしれないけれど、美々香の特殊能力以外は地に足のついたマジメな本格ミステリーになっています。
第13号船室からの脱出
巷で大人気の「リアル脱出ゲーム」が本当の犯罪に使われるミステリー。
まず本作、登場人物がいいです。
定期テストで学年一位のカイトと二位のマサルの秀才同士が登場するんですが、この二人が知恵比べをしていく展開がアツい。
正攻法で解いていくマサルと奇想で解いていくカイトのキャラ造形がよくできていて、一つの問題を二人の人物が別々の解法で解いていく様子は、手品の種明かし的なおもしろさがあります。
クルーズ船を舞台としたリアル脱出ゲームがかなり本格的(参加したことがないから本物っぽいかはわからないけど)で、問題も緻密に作り込まれています。
読者側もこの問題を解いて楽しむおもしろさがあって、本当に参加してみたいなぁ、と思わせてくれるレベルでよくできています。
ただ、私が「リアル脱出ゲーム」を実際にプレイしたことがなく、プレイ経験があったら本作をより楽しめたかもしれないと思うと、ちょっともったいなかったかもしれないね!
単行本版「あとがき」がいい!
私が読んだのは単行本版(2021年2月現在、本作は文庫化していません)ですが、巻末のあとがきがすばらしかったです。
収録作4編に関する舞台裏が書かれていて、まず単純に読んでおもしろいです。
それから、作者の阿津川さんのミステリー愛がこれでもかと伝わってくる情熱的な文章!
これを読んでいるだけでこちらまで楽しくなってくる、そんなあとがきです。
本作を手に取りましたら、本編だけでなく「あとがき」まで楽しんでもらいたい一冊ですね!
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終わりに
何度も繰り返しになってしまうのだけど、本書はいろいろな趣向が凝らされているすばらしいミステリー短編集です。
普通のミステリーに飽きてしまって、特殊な状況下で起こる謎解きや、超常現象を組み込んだ謎解きを楽しんでみたい場合にうってつけです。
本記事を読んで、阿津川辰海さんのミステリー短編集『透明人間は密室に潜む』を読んでみたいなと思いましたら、ぜひ本書を手に取ってみてくださいね!
ちなみに、同著者の『紅蓮館の殺人』もおすすめですので、これも興味があればぜひ読んでみてください。
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最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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