こんにちは、つみれです。
このたび、方丈貴恵さんの『名探偵に甘美なる死を』を読みました。
VRミステリーゲームの試遊会のためにとある島に集まった8人の素人探偵が、VR空間と現実世界の両方で殺人事件に巻き込まれていく長編ミステリー小説です。
また、「竜泉家の一族」シリーズの第三作目でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:名探偵に甘美なる死を
著者:方丈貴恵
出版:東京創元社
頁数:416ページ
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目次
現実世界とVR空間を行き来する特殊設定ミステリー!
私が読んだ動機
シリーズ一作目『時空旅行者の砂時計』、二作目『孤島の来訪者』がおもしろかったので続編となる本作も読みました。
こんな人におすすめ
- 特殊設定ミステリーが好き
- クローズドサークル・ミステリーが好き
- とにかく複雑でややこしい謎解きを楽しみたい
- 今まで味わったことのないミステリーを読んでみたい
あらすじ・作品説明
「ゲームの中で人を殺してもらいたい」
有名ゲーム会社・メガロドンソフトから依頼を受けた加茂冬馬は、「犯人役」としてVRミステリーゲームのイベント監修を行うことに。
イベントの試遊会は瀬戸内海に浮かぶ島の保養所「メガロドン荘」で開催され、プレイヤーとして8人の素人探偵が集められた。
単なる遊びだったはずの試遊会は、何者かの意思によって邪悪なデス・ゲームへと変貌する。
プレイヤーたちは大切な人と自分の命を賭け、VR空間と現実世界で起こる殺人事件の謎を解かなければならない。
「竜泉家の一族」シリーズ第三作目
『名探偵に甘美なる死を』は、「竜泉家の一族」シリーズの第三作目に当たります。
シリーズの順番は下記の通り。
- 『時空旅行者の砂時計』
- 『孤島の来訪者』
- 『名探偵に甘美なる死を』(本作)
本作にはシリーズ一作目『時空旅行者の砂時計』の主人公「加茂冬馬」と、二作目『孤島の来訪者』の主人公「竜泉佑樹」の二人がメインキャラとして登場します。
ただし、基本的には加茂の視点を軸に描かれ、佑樹はあくまでメインキャラの一人という扱いです。
前二作はどちらから読んでも差し障りがありませんでしたが、本作は前二作の主人公格がバリバリに活躍するので、先に前二作を読んでおくのがおすすめ。
本シリーズは作品タイトルを見ただけではシリーズ作品であることがわかりづらいので、シリーズ一作目から順番に読みたい派の人は上の一覧を参考にしてくださいね。
特殊設定ミステリー
「竜泉家の一族」シリーズは「特殊設定ミステリー」がテーマになっていて、普通の本格ミステリーにはない特殊な要素が謎解き・トリックに絡んできます。
本作では「現実世界とVR空間を行き来する」という特殊設定が謎解き・トリックに組み込まれています。
各世界の舞台は下記の通りです。
- 現実世界:「メガロドン荘」(有名ゲーム会社の保養所)
- VR空間:「傀儡館」(VR空間上の館)
現実世界の登場人物がVR世界ではアバターを操作する趣向になっており、現実世界とVR世界の両方で殺人が起こるという前代未聞のミステリーが展開されます。
かなり複雑な設定なので、読んでいる箇所がどっちの世界の描写なのか混乱しそうですよね。
でも安心してください。
現実世界の人物は「加茂」や「不破」のように名前が漢字表記となり、VR世界のアバターは「カモ」「フワ」のようにカタカナ表記となります。
この名前の表記分けのおかげで混乱することがないようになっていますよ。
クローズドサークル・ミステリー
「竜泉家の一族」シリーズのもう一つの特徴として、クローズドサークルを取り扱っていることが挙げられます。
クローズドサークル・・・何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱ったミステリー作品。
本作では、二つの舞台「メガロドン荘」「傀儡館」間を何度も往復することになります。
しかし、両舞台ともに外部には出ることができません。
特別なルールのもとで、二つの館を行き来できる特殊なクローズドサークルというわけですね。
ちょっと変わったクローズドサークル作品を読んでみたいという人にはうってつけの一作となっていますよ。
ミステリーとして
本作は普通の本格ミステリーと異なり、特殊なルールがてんこ盛り状態!
まさに特殊設定ミステリーをテーマにした「竜泉家の一族」シリーズの面目躍如といったところです。
めちゃくちゃおもしろい特殊設定ミステリーですが、欠点もあります。
それはとにかく「追加ルール」を把握するのに脳のリソースをかなり消費するということ。
特に本作は、独自の特殊設定がかなり複雑でややこしく、説明された内容をしっかりと頭に叩き込んだうえで読み進めていかないと訳がわからなくなります。
いちおう、情報を小出しにすることで読者の負担を抑えるよう工夫はなされていますが、それでも私はルール確認のために何度も前のページに戻りました。
普通の本格ミステリーとは一味違うおもしろさを提供してくれる代わりに、特殊設定ミステリーには複雑さという宿命的な欠点があります。
本作もかなりややこしい展開を迎えることになるので、内容に集中できるタイミングで読むことをおすすめします。
ルールが小出しで説明される
本作では特殊なルールがてんこ盛りだと書きましたが、読者を混乱させないように配慮がなされています。
それが上にも書いた通り、特殊ルールの説明が小出しに行われること。
物語の進行に伴って都度必要なルールが説明されるため混乱が起きにくいようになっています。
一方、ルールが小出しで説明されることで「後出し説明」的な印象が生まれ、アンフェア感を覚える人もいるかもしれません。
「それは最初に言ってくれ!」と感じる人もいそう。
このあたりの感覚は人それぞれかもしれませんね。
個人的には必要な時に必要なルール説明が適宜行われるので頭がパンクせずに済み、かなり助かりました。
各プレイヤーの役割設定
本作で行われるのは現実世界とVR世界をまたにかけたデス・ゲーム。
タイムオーバーまでに二つの世界で起きたすべての謎を解き明かすことがプレイヤーの主たる目的となっています。
そして集められた8人のプレイヤーにはそれぞれ役割が割り振られます。
割り振られる役割は下記の3種類。
- 探偵役:犯人役と執行人が起こす事件の謎をすべて解き明かせば勝利。ただし、解答に失敗した場合は執行人に殺害のターゲットにされる。
- 犯人役:VR世界で殺人を実行しながら、自分以外が起こした事件の謎をすべて解き明かせば勝利。VR世界での犯行に失敗し、自分が犯人だと指摘された時点で敗北となり、執行人に命を狙われる。
- 執行人:他プレイヤーの攪乱と殺害を実行し、自分以外のプレイヤーを全滅させるか、他プレイヤーがすべての謎を解く前にタイムオーバーになれば勝利。
おもしろいのは普通のミステリーでは相容れない「探偵役」と「犯人役」が同じ陣営に属し、すべての謎を解くことが勝利条件となっていること。
厳密にいうと犯人役の勝利条件は、自分がVR世界で起こした事件以外の謎を解くことだね。
一方、「執行人」は完全に「探偵役」「犯人役」の敵に当たる存在で、8人のプレイヤーのなかに裏切り者が紛れ込んでいることになります。
「犯人役」と「執行人」は自分が犯罪者であることを見抜かれることはリスクとなるので、基本的に表面上は「探偵役」として振る舞い、秘密裏に犯行を重ねていくという形です。
解答権
本作がおもしろいのは、プレイヤーが普通の殺人事件調査では絶対に課せられることのないリスクを負わされる点。
そのリスクの最たるものが謎解きの「解答権」は一人一回きりということです。
二つの世界で起きた事件の謎を「完答」することが「探偵役」「犯人役」の勝利条件ですが、それを解答する権利は一人につき一回しかありません。
もし解答を失敗すれば、その失敗者は現実世界で「執行人」に命を狙われます。
「執行人」の犯行を防ぐことができず現実世界で新たな殺人事件が起きた場合、「次の謎」が生まれることになり、結果的に「完答」という勝利から遠のくわけですね。
どのタイミングでプレイヤーたちが一回きりの「解答権」を行使するのかも本作の見どころの一つですよ。
普通のミステリーでは解答権の回数など設定されていないので、本作の緊張感が際立ちますね。
VR空間独自の特殊ルール
本作ではミステリーとして独自のルールが盛りだくさんですが、特にそれが顕著なのが「VR空間での殺人」に関するルール。
VR世界での殺人には特殊ルールが設けられており、なんと被害者は翌日にゴーストとして復活し、生存者と会話したり調査に参加したりすることができます。
もちろんこの場合、現実世界のその人物が実際に死ぬことはありません。
VR空間での死者が頭に天使の輪を浮かべた状態で自分の死んだ状況を語り、犯行現場の調査に参加するなど、本作ならではの滑稽な展開が楽しめます。
しかし「死者による告発が可能」というのは、VR空間での殺人を課されている犯人役にとってはやっかいなルール。
これは「自分が殺人者であることを被害者にすら見抜かれてはならない」ということです。
このルールの存在によって、VR世界での殺人は現実世界のもの以上に難易度が高くなっており見どころ満載ですよ。
かなり複雑でややこしい
『名探偵に甘美なる死を』に限らず、「竜泉家の一族」シリーズすべてに言えることですが、設定がかなり複雑でややこしいです。
本格ミステリーに追加ルールを加味した特殊設定ミステリーという性格上、ミステリーを読みなれていない人には向かないかもしれません。
ミステリー初心者に向かない理由は下記の二つ。
一つは、ある程度普通の本格ミステリーを読み、その世界の「お約束」を知っておいたほうが本作を楽しめるということ。
そしてもう一つは、繰り返しになりますが単純に本格ミステリーをほとんど読んでいない状態で本作に取り掛かるのは難易度が高すぎるということ。
できれば綾辻行人さんの「館」シリーズなどを事前に読んでから本作に挑むのがおすすめです。
でもめちゃくちゃおもしろい
逆に本格ミステリーに慣れ親しんでいる人にとっては、今までにない読み心地を楽しめるという点でかなりおすすめできます。
本作では現実世界のものとVR空間のものを合計すると多くの殺人が行われますが、そのすべてのトリックが目新しくハイレベル!
ミステリーファンにとってはたまらない一冊となっていますので、未読の人はぜひ読んでみてくださいね。
『名探偵に甘美なる死を』の素敵なつぶやき
『名探偵に甘美なる死を』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。
#方丈貴恵『名探偵に甘美なる死を』(東京創元社/2022)
VR空間と現実世界の二重クローズド・サークル。
複数人の犯行が混在し、冒頭から結末まで全てが計算し尽されています。設定も展開もトリックも秀逸!
圧倒的面白さと神業的巧さに、鳥肌が立ちました。
凄すぎる著者の脳内を見てみたい。#読了 pic.twitter.com/wuLbTS6J6I— 文学サロン 朋来堂 (@horaido_j_book) March 3, 2022
#読了 方丈貴恵「名探偵に甘美なる死を」(個人的評価A)
VR空間と現実世界での密室殺人という
特殊設定もあくまでもフェアプレイに
則った本格ミステリで面白いです。
二転三転する最後まで気が抜けない展開で
予想が追いつかないけど常に新しいものを
加味するバランスが素晴らしいシリーズ😊#読書 pic.twitter.com/l3bOEyUvQQ— Moonstone, The (@Kohsg23) April 2, 2022
『名探偵に甘美なる死を』 #読了
#方丈貴恵
竜泉家の一族シリーズ3作目生きて帰れるにはVR空間と現実での殺人ゲームを解明するしかない!
トリックが見事で圧巻でした!
最後の最後まで面白さが詰まっていて読者を楽しませてくれる作品でした!#読書好きな人と繋がりたい pic.twitter.com/4A4ueB2NNn
— ねこゆる@読書垢 (@nekoyuru_book) January 12, 2022
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終わりに
『名探偵に甘美なる死を』は、とある島に集められた8人の素人探偵が、現実世界とVR空間の両方で起こる殺人事件の謎を命を賭けて解いていく長編ミステリー小説です。
かなり特殊な設定が盛り込まれたVR空間の存在が本作のおもしろさを何倍にも高めてくれています。
本記事を読んで、方丈貴恵さんの『名探偵に甘美なる死を』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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