こんにちは、つみれです。
このたび、アメリカのミステリー作家、エドガー・アラン・ポーの短編「告げ口心臓」を読みました。
語り手がおじいちゃんに対して「異常な感情」を抱き、「狂気の結末」に至るまでを独白形式で描く短編です。
本記事は『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人』所収の一編「告げ口心臓」について書いたものです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
短編名:告げ口心臓(『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人』所収)
著者:エドガー・アラン・ポー
出版:KADOKAWA
頁数:12ページ
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目次
異常と狂気の独白短編!
私が読んだ動機
本編が収録されている『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年4月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 独白形式の物語を読みたい
- ごく短い物語を読みたい
- 不穏で不気味な物語が好き
あらすじ・作品説明
語り手には大好きなおじいちゃんがいるが、ただ唯一、おじいちゃんの「とある特徴」だけが怖かった。
語り手は七日七晩にわたって部屋で寝ているおじいちゃんの部屋を覗き、その様子をうかがった。
そして八回目の夜、ついに事件が起こる。
不穏さが光る超短編
「告げ口心臓」は、読者に「不穏さ・不気味さ」を味わわせてくれる怪奇短編です。
わずか12ページと極めて短いため読みやすいのも特徴の一つ。
とにかく短いので、ポーの描く不穏な物語を手軽に味わえるのでおすすめの一編です。
独白で進む物語
本作「告げ口心臓」は、語り手の独白で進んでいく短編です。
この語り手が常に元気な口調で喋り続けるため、一見すると明るい物語のように感じられますが、これが本作の罠。
終始、雄弁に独白し続ける語り手の口調にどこか不穏で不安定な内面が垣間見えるんですよ。
この口調は、まさに一種の「躁状態」といっても過言ではなく、読んでいて若干の焦りを感じるような文章となっています。
「躁状態の独白」によって一種独特な読み心地の短編となっていますので、興味がある人はぜひとも読んでみてくださいね。
語り手とおじいちゃんのやり取りの妙
本作の醍醐味の一つは、「語り手」と「おじいちゃん」の緊迫感あふれるやり取り。
真っ暗な部屋で寝ているおじいちゃんと、シャッターつきのランタンを持っておじいちゃんの部屋を窺う語り手の不気味な対峙がスピーディな筆致で描かれます。
この間、おじいちゃんと語り手は両人ともにほとんど身じろぎをせず、動的なアクションが全くありません。
にもかかわらず、このシーンを語る語り手の独白は暴風が吹き荒れるがごとく矢継ぎ早に言葉が発せられるんです。
時が止まったような状況と、その状況を説明する言葉の奔流の「静と動の対比」がすさまじく不穏なんですよね。
とりわけ、ランタンのシャッターを少しずつ開きながらおじいちゃんの「とある身体の一部」に細い光線を当てていくシーンなどはまさに狂気以外のなにものでもありません。
非常に動きの少ないシーンが猛烈なスピード感で語られる不穏と狂気をぜひとも味わってみてくださいね。
異常な心理描写
本作のもう一つの醍醐味と言えるのが、語り手がおじいちゃんを殺害するときの異常な心理、及び動機です。
語り手としてはおじいちゃんのこと自体は大好きなのに、おじいちゃんの「ある特徴」に「ゾゾゾッと」するという理由で殺害してしまいます。
この異常な心理、動機を単に不穏で不安定な語り手の性質と読んでもおもしろいし、何か特殊な意味合いを求めてみてもおもしろそうです。
解釈の余地が多分に残るため、まさに読む人によって異なる印象を受けそうな一編ですね。
後半の警察官来訪時の心理
本作では終盤で語り手のもとに3人の警察官が来訪します。
おじいちゃん殺害にまつわる語り手の心理描写だけでなく、この警察官来訪時の語り手の心理も異常の一言です。
大罪を犯したことが発覚するかどうかの瀬戸際にある語り手の「特殊な強迫観念」が、スピーディで妙に明るい独白によって語られています。
これも非常に味わい深い描写となっていますので、ぜひとも読んでもらいたいですね。
心臓の音
本作ではたびたび「心臓の音」に関する描写が差し挟まれます。
語り手はそれを「おじいちゃんの心臓の音」と思い込んでいるフシがあり、その音が大きくなることに恐怖を覚えるなどかなり独特な思考回路を持っています。
私はこの心臓の音は「語り手自身の心臓の音」なのではないかと思ったのですが、明確な答えは作中で書かれていません。
いろいろと解釈の分かれる要素を含む本作ですが、この「心臓の音が誰のものか」ということもその一つですね。
語り手の性別・年齢は?
本作「告げ口心臓」では語り手の性別・年齢が名言されていません。
私は勝手に年若い女性だと思い込んで読み進めていましたが、確かに作中では一言も性別・年齢が書かれていないのです。
本作について複数人と語り合う機会を得、このテーマについて意見を求めたところ、読む人によってかなり印象が異なるようでした。
いろいろな人と意見を交わしてみるとおもしろいテーマかもしれませんね。
また、訳文の影響もかなりありそうなテーマなので、「別訳や原文では印象がどう変わるか」など考察を発展させるとよりおもしろそうです。
解釈の余地を大いに残す一編
上に書いてきた内容を振り返ると、本作は極めて短い物語でありながら読む人によってかなり風景が変わってきそうな一編です。
下記は作中で全く言及されていません。
- 語り手の心理
- 心臓の音の発生源
- 語り手の性別・年齢
これらについて、作品としては明記していなくても、読む側としては何となく勝手に設定して読み進めたくなってしまうんですよ。
このあたりの差異を複数人で語り合ってみるととてもおもしろそうです。
読んだ人を集めて感想を交換してみると新たな発見があるかもしれませんね。
終わりに
『告げ口心臓』は、語り手がおじいちゃんに対して「異常な感情」を抱き、「狂気の結末」に至るまでを独白形式で描く短編。
いたるところに不穏さ・不安定さがにじみ出ており、怪奇小説としてめちゃくちゃおもしろかったです。
また、解釈の余地が多分に残されたまま終わるので、読み終わった人同士でまったく異なる感想を抱く可能性があるのも味があって良かったですね。
本記事を読んで、エドガー・アラン・ポーの「告げ口心臓」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人』を手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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