こんにちは、つみれです。
このたび、潮谷験さんの『時空犯』を読みました。
「意図的に時間の巻き戻しを行っている時空犯」を突き止めるため、主人公・姫崎智弘たちがタイムリープを繰り返すSFミステリー小説です。
SF要素と本格ミステリー要素が絶妙なさじ加減で配合されていました。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:時空犯
著者:潮谷験
出版:講談社(2021/8/19)
頁数:322ページ
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目次
タイムリープと犯人当てをかけ合わせたSFミステリー!
私が読んだ動機
特殊設定ミステリーが読みたくて、SF要素の入っていそうな本作を選びました。
こんな人におすすめ
- 特殊設定ミステリーを読みたい
- SFが好き
- タイムリープを扱った物語を読みたい
あらすじ・作品説明
私立探偵・姫崎智弘の元に舞い込んだのは、情報工学博士・北上伊織による成功報酬一千万円という破格の依頼。
北上博士いわく、依頼日である2018年6月1日は978回も巻き戻されている。
依頼内容の説明会会場には、北上博士の他に姫崎を含む8人のメンバーがいた。
8人は時間の巻き戻しを認識できるようになる薬剤を飲み、現象の原因を突き止めようとする。
次の巻き戻しで再び6月1日がやってくると、北上博士が他殺死体として発見される。
SF+ミステリー
本作『時空犯』は時間の巻き戻しとタイムリープをテーマに据えたSFミステリーで、文字通りSFとミステリーをかけ合わせた作品となっています。
物語としては、主人公たちが「意図的に時間の巻き戻しを起こしている人物=時空犯」を突き止め、巻き戻し現象を止めるために特殊な薬剤を服用してタイムリープを行うというもの。
タイムトラベルでなく、あくまでも「巻き戻し」なのがポイントです。
薬剤を飲んだ人物だけが「巻き戻し」前の意識を保持できるという設定とミステリー要素が絡むことで新鮮な謎解きを味わうことができます。
また、物語途中でかなりSFサイドに振り切れるシーンがあり、なかなか荒唐無稽な展開を迎えます。
正直なところ、この超SF展開に関しては好みが分かれそうですが、決してその後のミステリー的展開を破綻させるものではありません。
むしろそれも謎解きに関わってくるという巧さがあり、私はとても楽しく読めました。
物語終盤の「時空犯当て」は、ロジカルでありながら単純でわかりやすく、SFとミステリーの両要素を堪能できるハイレベルな解決編となっています。
特殊設定ミステリー
本作は時間の巻き戻しやタイムリープをテーマにした特殊設定ミステリーです。
特殊設定ミステリーらしく、序盤は設定の説明に終始しますが、これがかなりすっきりとまとめられていてとてもわかりやすかったです。
特にタイムリープは本作のキモとなっている要素で、その方法や効果が及ぶ範囲などの設定が非常によく練り込まれています。
タイムリープの設定的な話については、私は大いにおもしろがって読みましたが、人によってはややこしく感じることもあるかもしれません。
ただ、序盤にSF要素が丁寧に説明されることによって、本格ミステリーとしてのフェアさが担保されている側面もあります。
タイムリープに関する作者独自の設定が謎解きにもしっかり関わってくるので、SFまわりの仕様を理解しておくとおもしろさが倍増する作品と言えます。
複数人が一緒にタイムリープ
本作は、タイムリープものとしては珍しく複数の人物が同時にタイムリープの対象となります。
タイムリープ対象者同士が、「時間巻き戻し」の前に行っていたやり取りを、巻き戻し後に継続できる展開はとても新鮮でしたね。
また、秘密の技術を共有する人たちの物語なので、読んでいくうちに自然とメンバー間で「タイムリープ仲間」的な意識が芽生えていく感じが良かったです。
そして、その「タイムリープ仲間」のなかに「時空犯」が隠れている可能性が高いことが序盤で示唆されます。
これが本作のおもしろいところです。
選ばれし仲間のなかに潜む裏切り者の構図には独特の高揚感と緊迫感があり、結末を知りたくてどんどん先へと読み進めていってしまいます。
反則的なアイテム
本作にはSF的なアイテムが二つ登場します。
そのうち一つは上にも書きましたが、飲むことで時間の巻き戻しを認識できるようになり、結果的にタイムリープの対象者になれる薬剤です。
もう一つについてはネタバレになるのでここで詳細を言えないのですが、これがミステリー的には反則級に強力な代物。
「このアイテムがあると普通のミステリーは破綻してしまうだろうな」と思いましたが、これが本作では極めて効果的に使用されていてめちゃくちゃおもしろかったです。
どういうアイテムなのかはぜひ本作を読んで確かめてくださいね。
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個性豊かな登場人物
本作『時空犯』は、序盤で10名弱の登場人物がワーッと一気に登場します。
えっ、覚えるの大変そうですね!
大丈夫です。
心配はいりません。
「捜査能力が高い警察官」「IT分野に詳しい高校生」など各キャラクターに濃い目の属性が付与されていて、みんな個性的で極めて覚えやすくなっています。
また、捨てキャラのような人物がおらず、すべての人物が魅力的に描かれているのも良かったですね!
主人公・姫崎智弘とヒロイン・蒼井麻緒
本作の主人公は、私立探偵業を営む姫崎智弘35歳。
探偵的な鋭い視点と頭の回転の速さを持っているものの、ミステリーの探偵としては普通な感じの男性です。
正直、ちょっと冴えない感じの姫崎ですが、そんな彼が一回りも年の離れたアイドル・蒼井麻緒に好かれまくっているという超ラノベ展開が本作の持ち味。
彼ら二人の出会いや、仲の進展具合なども描かれており、これも本作のおもしろさに繋がっています。
これがミステリーに必要な要素かどうかはとりあえず横に置いておくとして、淡い恋愛要素を楽しみたいという人にもおすすめの一冊となっていますよ。
オバちゃん
個性的なキャラ揃いの本作の登場人物のなかでも、とりわけ個性が光っていたのが「オバちゃん」。
オバちゃんとは、京都の観光業者協会会長を務めつつ、みやげ物屋以下複数の物件を経営している大岩花子という中年の女性。
肩書こそ大物級の人物ですが、これがなかなか親しみやすいキャラクターなんですよ。
声が大きく、ガサツで、若干デリカシーに欠けるところがありながら、情に厚く、時に優れた頭の回転の速さを見せるという味のある人物です。
本作は基本的にシリアスな物語なのですが、このオバちゃんの存在が物語に明るさをもたらしてくれていますね。
大岩花子という立派な名前を持っていながら、地の文でも平気で「オバちゃん」と書かれているのが笑いを誘います。
文章が読みやすい
本作『時空犯』で良いと思ったのが、文章が圧倒的に読みやすいこと。
非常に素直な文章でスイスイと頭に入ってくるので、本当にサクサクと読めちゃいます。
SF的な説明の箇所などはけっこう複雑な内容が書かれているにもかかわらず、すんなりと読めてしまうリーダビリティの高さがすばらしかったです。
地味に思えるかもしれませんが、文章の読みやすさはそのまま読書の快適さに直結するので助かりますね。
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終わりに
『時空犯』は、「意図的に時間の巻き戻しを行っている時空犯」を突き止めるため、主人公たちがタイムリープを繰り返すSFミステリー小説です。
複数人が同時にタイムリープするという珍しい設定のおかげで、新鮮な謎解きを楽しむことができる一冊となっています。
本記事を読んで、潮谷験さんの『時空犯』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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