こんにちは、つみれです。
このたび、朱野帰子さんの『わたし、定時で帰ります。』を読みました。
タイトルの通り「定時で帰る」ことをモットーにしているOL東山結衣を主人公に据えたお仕事小説です。
『わたし、定時で帰ります。』が気になっていて読むかどうか迷っている人は、本記事を判断の材料にしていただけるととてもうれしいです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:わたし、定時で帰ります。(新潮文庫)
著者:朱野帰子
出版:新潮社(2019/1/29)
頁数:368ページ
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目次
「絶対に定時で帰る!」OLの物語!
私が読んだ動機
kindle unlimited の対象作品(2021年4月現在)で、おもしろそうだったので読みました。
こんな人におすすめ
- お仕事小説が読みたい
- 定時で帰りたい派
- 逆に残業をバンバンやる派
- 今の働き方に疑問を感じている
あらすじ・作品説明
とある会社で働くOLの東山結衣の信条は「絶対に定時で帰る」こと。
仕事中毒の上司や、絶対に会社を休まない女性社員、優秀だが「辞めます」が口癖の新人など、クセの強い社員に振り回されながらも定時で帰るスタイルを崩さない結衣。
そんな結衣が失敗必至の炎上プロジェクトのチーフに任命されてしまう。
変わり種のお仕事小説
本作はいわゆるお仕事小説です。
お仕事小説とは、登場人物たちの仕事をする様子を描きながら、その職業の内容や裏事情を掘り下げていくタイプの小説。
たいていのお仕事小説は、ある職業を取り上げてその職業ならではの悲喜こもごもを描いていくのが常です。
でも、本作『わたし、定時で帰ります。』は普通のお仕事小説とはちょっと違うんです!
主人公の東山結衣は32歳のOLで、「絶対に残業しない」がモットー。
つまり「ある特定の職業」ではなく、「残業を是とするか非とするか」をテーマにしているという点で他のお仕事小説とは一線を画しているのです。
定時に帰ることを信条にしている結衣ですが、なんと上司から炎上プロジェクトのチーフに任命されてしまいます。
結衣は自分の信念を曲げず、「このプロジェクトでは他のメンバーにも定時で帰ってもらう!」と息巻きますが、ワーカホリックぎみの上司や同僚などの強敵が立ちはだかります。
正直、表紙を見た感じや読み始めの印象から、めちゃくちゃ軽めのギャグ路線のお仕事小説かと思いきや、意外にも熱血系。
一つの問題をクリアするとすぐに別の問題が起こるので、飽きることなくどんどん読み進めていくことができますよ。
「絶対に定時に帰るぞ!」という少しひねった方向性の熱血具合がユニークなお仕事小説です。
キャラクターがいい!
本作、登場人物がいいキャラばかりなんです!
「いい」というのは「性格がいい」ということではなくて、イヤなやつもいっぱい出てきます。
「じゃあなにがいいのか?」というと、登場人物がみんなとにかくキャラが立っていておもしろいんですよ。
だいたい主人公の結衣からして、「定時に帰る」ことを信念にしているというお仕事小説にしては特異なキャラ。
他にも、インパクト大のキャラがたくさん登場します。たとえば、下記のような感じ。
- 会社を休まないことに命を懸ける「皆勤賞女」(この表現のセンスすごい)
- 長時間働くことに意義を見出す昭和的社畜思考のワーカホリック男
- 高学歴で容姿もよく仕事の覚えも早いが、すぐ「辞める」と言い出す扱いの難しい新人
- 外面だけ良くて採算度外視の案件を取ってくる上司
ね?どこかで会ったことがあるような人物ばかりでしょ。
極端な考え方の人物ばかりが登場するので、単純に彼らが織りなす人間模様が物語としてめちゃくちゃおもしろいんですよ。
本作の人間関係は、社畜魂に染まっている人と彼らに翻弄される主人公の結衣というのが基本的な構図になります。
たとえば、結衣の定時退社を阻止せんとばかりに定時ギリギリに仕事を振ってくる人物が登場するのですが、「いるいる!そういうやつ、いるわあー(笑)」と思ってしまいますよね。
私の会社にも、私が定時で帰ろうとした瞬間に「つみれ君(仮名)、ちょっとこれやっといて。明日までね!」といいながら颯爽と帰っていく上司とかいましたからね。
帰りがけに言い放っていくものだから、セリフの最後のほうはドップラー効果で小さくなっていくんですよ!腹立たしいですねえ!!
おっと失礼、取り乱しました。
本作は、会社で働いているとよく遭遇する「あるあるネタ」の宝庫のような小説になっています。
以上で見てきたように、様々なキャラクターが登場してとても賑やかで楽しい小説です。
こういうふうに書くと、「キャラクターが多すぎて覚えづらいのではないか」と思うかもしれませんが決してそんなことはありません。
たくさんのキャラクターが登場しますが、序盤で一気に出てくるのではなく、読者に負担がかからない感じで少しずつ登場するのでとても覚えやすくなっていますよ。
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結衣の恋愛模様も見どころ
主人公の結衣の恋愛模様も本作の見どころの一つです。
もともと結衣には結婚間近の恋人がいましたが、彼とはうまくいかず別れてしまいました。
その元恋人は社畜系の仕事人間で、「定時帰り」を信条とする結衣とすれ違ってしまったのです。
その後、結衣は、彼女と同じく仕事を早く終えて帰るタイプの諏訪巧という人物とお付き合いするようになります。
非常に相性の良く見える結衣と巧ですが、この恋愛の行く先を追っていくのも本作のおもしろいポイントですね。
残業は悪か?
本作は、「定時に帰る」ことを信条とするOLの結衣を主人公に据え、「はたして残業は悪なのか?」というテーマに切り込んだ一作です。
主人公の結衣が勤める「ネットヒーローズ株式会社」はウェブマーケティング関係の会社。
私はメーカーの情報システム部での業務経験があるので、仕事を依頼する側とされる側の違いはあれど、よくわかる業界の話でしたね。
仕事が立て込んだときはいくら残業してもぜんぜん終わらないということもありました。
個人的には、残業はしないに越したことはないと思っているので「結衣の考え方にめちゃくちゃ共感できた」というのが正直なところです。
実は結衣が残業を嫌うのは、仕事が嫌いだからというわけではありません。
その理由も物語が進むにつれ徐々に明らかになっていきますが、そこにもしっかりとしたドラマがあってよかったですね。
定時で帰りたい派じゃなくても楽しめる
本作『わたし、定時で帰ります。』は、「定時で帰りたい派」「残業バリバリする派」のどちらの人でも楽しめる小説です。
本作に登場するキャラは、残業をしない人もする人もそれぞれ自分の理念に従って行動しています。
いろいろなタイプのキャラがいるので、一人くらいは読者に近い考えの人物がいるはず。
実際の仕事で自分が置かれている状況によって、読後の印象が大きく変わってくる小説だと思いました。
本作の主人公の結衣は32歳の中堅OLということで、社会人の生活にある程度慣れてきて、先輩と後輩の板挟みになる時期にあたっています。
そういうタイミングで読むと、より結衣に感情移入しながら読むことができそうですね。
もちろん、今現在の働き方に疑問を感じている人にもおすすめの一冊です。
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終わりに
社会に出て会社員を長年やっているとよく遭遇するような「会社員あるあるネタ」がふんだんに盛り込まれていてめちゃくちゃおもしろかったです。
笑いとシリアス、軽いシーンと重いシーンのバランスが良く、メリハリがきいていて読みやすい一作でしたね。
残業否定派の人にも肯定派の人にもおすすめできる一冊です。
本記事を読んで、朱野帰子さんの長編お仕事小説『わたし、定時で帰ります。』を読んでみたいと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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