こんにちは、つみれです。
このたび、伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』を読みました。
先入観を仮想敵に据え、目立たない存在たちが世間に一矢報いていく痛快な短編を5編収録した一冊です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
- 2021年本屋大賞ノミネート作
- 第33回柴田錬三郎賞受賞作
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
作品情報
書名:逆ソクラテス
著者:伊坂幸太郎
出版:集英社(2020/4/24)
頁数:288ページ
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目次
先入観をぶっ壊せ!
私が読んだ動機
2021年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 目立たない存在に焦点が当たる痛快作を読みたい
- とんちの効いた物語が好き
- 小学生時代を懐かしみたい
- 伊坂幸太郎独特のセリフ回し(伊坂節)を味わいたい
- 本屋大賞候補作が読みたい
あらすじ・作品説明
目立たないことは悪いことなのか。
活躍できない者は侮られるべき存在なのか。
先入観に支配された凝り固まった考え方をやっつけろ。
地味で目立たない存在に着目した痛快作5編を収録。
目立たない存在に注目
本作に収録された5編ともに共通するのが、小学生を主人公に据えた物語になっていること。
さらに特徴的なのが、特にクラスやチームでも目立たない子に焦点を当てていることです。
ふつう、物語などでは優れた力を持った人物が注目されがちですが、本作は逆に「活躍できない存在」に着目。
彼らを侮ったりバカにしたりしてしまう「決めつけ」的態度を危険視する反骨精神が、全編に通底して流れています。
本作収録の5編のタイトルはすべて「逆」や「非」などの「打消し」の言葉が入っています。
このタイトルのつけ方に本短編集の持つ反骨精神が象徴されていると思いました。
また、本短編集を代表する打消し語である「逆」には、「大逆転」の意味も込められているように思います。
えこひいきをしてしまう教師・いじめっ子・授業妨害をする児童などを仮想敵に据えつつ、真の敵を「決めつけ・先入観」に見定め、目立たない子が大逆転を成し遂げていく粋で痛快な5編!
この爽快な読後感をぜひ味わってほしいです。
珠玉の5編
本作収録の珠玉の5編を紹介します。
上にも書いたように、各編とも打消し系の言葉がタイトルに使われていて不思議な統一感を感じさせます。このタイトルセンスがいいですねえ。
逆ソクラテス
クラスでも特に目立たず、学業でも運動でも注目されることのない草壁は、クラスメイトや担任教師にも見下されたり侮られている始末。
そんな彼につきまとう負の先入観を、彼に思いがけない活躍をさせることで覆してやろうという物語。
「草壁を英雄にしてやろう」というのでなく、あくまで周囲の先入観をひっくり返してやろう、というところに目的を置いているのが、いたずら心のなかにカラッとした痛快さを感じさせてとてもよかったです。
本編に何度も登場する「僕はそうは思わない」という決め台詞は、本短編集を象徴する名文句ですね!
スロウではない
「先生、小学生の頃は、運動ができないのは致命的だったんですよ」 『逆ソクラテス』kindle版、位置No.760
まさにその通り。小学生の頃はスポーツができる子は目立つしモテる。
その反対に、運動ができない子は目立たないしモテない。
小学校時代が持つこの地獄のような真理に真っ向から切り込んだ一作。
運動会で活躍できない運動が苦手なタイプの男児女児が、運動ができて威張りちらしている奴らに一矢報いる痛快作です。
主人公の小学生司とその友人悠太が繰り広げるドン・コルネオーレの寸劇がおもしろい。「では、消せ」とか言ってみたくなる。好きすぎる。
5編のなかでは、一番好きな作品。
非オプティマス
缶ペンケースを床に落とし、その騒音で授業妨害をする騎士人たち。気弱な久保先生は強く注意することもできません。
いつも同じ薄っぺらい服を着ている転校生の福生は、やはり騎士人たちにバカにされています。
面倒くさがりな主人公の将太と、若干癖のある転校生福生のコンビがいいですね。
この二人がいじめっ子&いたずらっ子の騎士人に痛い目にあわせてやろうという反骨精神が爽快でした。
意味深な描写もあり、読み終わった人と語り合いたい作品。
アンスポーツマンライク
小学生のミニバスケットボールチームに所属する主人公の歩。
他のメンバーはみんな自分の持ち味を生かしてそれぞれの役割を果たしているのに、歩はいざというときにチャンスを逃してしまう。
どうしても他メンバーと自分を引き比べて劣等感を覚えてしまう歩に共感してしまう一作。
小学生時代・高校生時代・社会人時代の3つの時代の歩たちのエピソードが描かれており、過去の行動がその後の生き方にしっかりと影響を与えていることがわかってうれしくなるいいお話です。
逆ワシントン
小学生の主人公謙介が友人の倫彦が、クラスメイトの靖の身体に児童虐待の形跡を認める。
二人はクラスメイトの一人<教授>と3名で、靖の救出作戦を敢行する。
小学生男児たちの漢気と友情とを楽しめる一作。
同著者の『残り全部バケーション』を先に読んでおくと思わぬリンクを楽しめるかも。
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小学生時代を懐かしみたい人にはかなりおすすめ
全編ともに主人公が小学生なので子供向けの印象を受けますが、決してそんなことはありません。
どちらかというと、子供時代・小学生時代を懐かしみたい大人向けの小説といった印象を強く受けました。
小学生時代によくあるようなひとコマをとてもうまく切り取っていて、「あー、そんなことあったなあ」「俺も経験したなあ」と読者が懐かしめるような作品です。
小学校時代にクラスで目立たない存在だったと自覚している人には特におすすめしたい一冊です。
私は運動が苦手なタイプの人間だったので、運動音痴な児童たちが一矢報いる一編「スロウではない」が最高に痛快でおもしろかったですね!
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終わりに
小粋で少しシャレた感じの伊坂節満載のいい小説でした。
どちらかというと注目されないタイプの存在が大逆転していく胸のスッとするような小気味よさが良かったです。
本記事を読んで、伊坂幸太郎さんの連作短編『逆ソクラテス』を読んでみたいと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
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