殺しの双曲線

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『殺しの双曲線』/西村京太郎:冒頭でトリックを種明かし!?

こんにちは、つみれです。

このたび、西村京太郎『殺しの双曲線』(講談社文庫)を読みました。

さっそく、本作の冒頭箇所をご紹介いたしましょう。

この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです<span class="su-quote-cite">『殺しの双曲線』(講談社文庫)p.6</span>

なんと本作、こんな宣言で物語が始まります。

トリックは半ば種明かししておくから、真相を当てられるものなら当ててみなさい」という作者の声が聞こえてきます。

 

これは読者に対する西村京太郎さんのあからさまな挑戦ですよ・・・!

 

よし、じゃあ解き明かしてやろうじゃないか! → 惨敗

というお決まりのパターンを私は辿りましたが、とてもおもしろい小説です。

あとから振り返れば非常に滑稽な読み違いをしていますので、ネタバレ感想でそのあたりにも触れてみたいと思います。

ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:殺しの双曲線 (講談社文庫)

著者:西村京太郎
出版:講談社 (2012/8/10)
頁数:488ページ

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双生児を利用したトリック!

冒頭でトリックを種明かし

私が読んだ動機

西村京太郎が描くクローズドサークルものの本格ミステリーがおもしろそうだと思って手に取りました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • クローズドサークルものが好き
  • 冒頭でトリックを種明かししてくる大胆不敵さに挑戦したい
  • 「西村京太郎の本格ミステリー」を読んでみたい

二つの事件が交互に描かれる

雪の山道

本作は、「双生児の連続強盗事件」と「雪山の山荘での連続殺人事件(いわゆるクローズドサークル)」が交互に描かれるというのが物語の基本的な構成となっています。

クローズドサークルの説明は下記の通り。

クローズドサークル

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品<span class="su-quote-cite">Wikipedia「クローズド・サークル」</span>

外界との連絡手段が絶たれることも多い。サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。

「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。

全く関係のなさそうにみえる物語が、どのようにして交わっていくのかというのが一つの見どころです。

この二つの物語はいいところで場面が切り替わるように描かれており、良くも悪くも「続きが気になる」作品となっています。

気づかないうちにグイグイ読み進めていってしまう勢いのある推理小説です。

2時間ドラマ系のトラベルミステリーで有名な西村京太郎ですが、「へ~、こんな本格ミステリーも書いているんだ!」というのが率直な感想です。

メイントリックは双生児

双子の鴨

本作は冒頭部で宣言されている通り、「双子トリック」が使用されています。

しかし、基本的にミステリーにおいて「双子トリック」は「夢オチ」や「多重人格トリック」と同様、タブー視されやすいという側面を持っています。

なぜかというと「どう考えてもアリバイが成立している人間が実は双子だったんですよ」というのはフェアではないからです。

アリバイ・・・犯行現場以外の場所にいたことをアピールすることで無実を明らかにすること

「作者さん、あなた双子だなんて事前に説明してくれなかったじゃないか!後出しじゃ読者にはわかりっこないよ!プンプン!」ということになります。

結局、犯人がポッと出の人物ということになってしまい、推理小説としては限りなくアンフェアなトリックだという評価がくだされてしまうわけです。

これは「ノックスの十戒」という推理小説を書くにあたってのルールのなかで、「双子トリックは事前に読者に知らされていないとアンフェアですよ」と規定されていることに由来します。

裏を返せば、あらかじめ「双子トリックが仕掛けられていますよ」と宣言する場合においては、十分フェアであるということになります。

繰り返しになりますが、『殺しの双曲線』では小説の冒頭部で「双子トリック」が仕込まれていることが宣言されています。

明らかに読者に対する挑戦であると同時に「ノックスの十戒」に対する挑戦でもあって、読む側からすれば「やってくれるじゃねえか、こんちくしょう」となるわけです。

ここまで高らかに宣言してしまって、どうやって見事トリックを成立させるのか!?というのがこの小説の醍醐味といえるでしょう。

まさに衆人監視のなか手品を行うような魔術的な技巧が凝らされています。

見破れる人はいったいどのくらいいるのでしょうか・・・?

 

私ですか?ええ、見破れませんでしたとも!

 

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クリスティのオマージュ

雪の山荘

アガサ・クリスティという作家がいます。

「ミステリーの女王」などと呼ばれるスゴイ作家なのですが、作品としては『そして誰もいなくなった』が特に有名。

その斬新すぎるオチとパロディ化しやすい秀逸なタイトルから、クリスティの最も有名な作品の一つです。

実は『殺しの双曲線』の雪山の山荘の物語は、クリスティの『そして誰もいなくなった』を意識したつくりになっています。

だんだんと人が殺されていく点は同じであるものの、そこはミステリー作家西村京太郎。

まさかクリスティの描いた結末と同じ終わり方ではないだろうと思わせてくれるんですね。

個人的にはクリスティの『そして誰もいなくなった』を読んだあとに本作を味わうと一層楽しめるのではないかと思います。

まさにクリスティへのリスペクトが感じられる見事なオマージュとなっていますよ。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

▼クローズドサークルのおすすめ作品

【ネタバレ感想・つみれの推理】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

『殺しの双曲線』のトリックを看破しようと私ががんばって推理した結果を書いていきます。

あとから読むと何もがんばっていないのがわかってつらいです。

ネタバレを多く含みます、注意!

今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減します。

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

この小説のキモは、「事件の発端」として、とある双生児が犯罪を決心するシーンを描いた箇所があるのですが、その直後に別の双生児が強盗を行う描写をもってくることで、読者にこの両双生児が同一の人物たちであると誤認させているところにあります。

つまり、双生児の二人を混同させる替え玉トリックではなく、二組の双生児同士を混同させるというトリックになっているのです。

作者が冒頭で宣言したように、しっかりトリックに「双生児であること」が利用されていながら、読者の意表を巧みについている優れた仕掛けと言わざるを得ません。

 

私はこの両組の双生児は生きている時代が異なり、強盗のストーリーは雪山のストーリーの20年程度前なんじゃないかという予測を、何の根拠もなしに立てていました。

おそらく振り返ってみると、下記のこの箇所で勘違いをしたのでしょう。根拠というにはあまりに薄弱で、今となってはもはや茶番です。

 

「今日は十二月三十日か」

と、刑事の一人が、カレンダーに眼をやっていった。

「今年は、あと一日しかないが、出来たら今年中に、この犯人をあげたいものだね」 

 

十二月三十日の夜行で、京子と森口は、東北のK駅に向った。 東北線の列車は(以下略)<span class="su-quote-cite">『殺しの双曲線』(講談社文庫)、p.30</span>

ブランク行のところでシーンが切り替わっています。前が強盗編、あとが雪山編です。私の持っている文庫にはここに付箋が神々しく貼ってあります。これが勘違いの動かぬ証拠です。

この付箋の意味は、以下のようなものです。

あぁ、なるほど、わかったよ西村クン!この二つの十二月三十日は日にちが同じだけれども、西暦が違うんでしょう?稚拙!稚拙!(←バカ)

細かいトリックは全くわからないけど、この時代の違いがトリックに関係しているに違いない。その点を注意して読み進めよう!(←バカ)

 

下記は、強盗編の刑事たちの会話です。

「[雪山の山荘で:引用者注]死んだ泊り客の中に、東京のタクシー運転手殺しのホシがいたようですな」

「それで、沢木刑事が、K町へ飛んだよ」<span class="su-quote-cite">『殺しの双曲線』(講談社文庫)、p.310</span>

えっ?飛んじゃうの?

この「飛んだ」というのは、過去の時代にワープしたとかそういったSF的表現ではなく、単純に移動したということです。

 

強盗編で活躍している刑事たちの会話に雪山の山荘事件に向かった別の刑事の話が出てきてしまったので、この二つの物語は同時代を描いています。私の仮説は音を立てて崩れ去りました。笑うしかなかったです。

20年前にも同じような事件があり、沢木という同姓の刑事がたまたま同じく担当したんじゃないかという苦しまぎれの別解釈も思いつきましたが、苦しいまま終わりました

 

結局、この予測ありきで読み進めていったので、まったくトリックが解けずに終わるという茶番を演じました。

まぁ、ここまで気持ちよく勘違いしているといっそ清々しいといったところで、この小説はとてもおもしろかったです。

終わりに

ミステリーを読んでいてすごいなと思うのは、一つの斬新なトリックが編み出されると、それを利用した新たなトリックが連鎖的に生まれるというところです。

ミステリー界の革命を引き起こした革新的作品とそれに感化された作品というのはセットで味わうとよりいっそう楽しめますね。

それにしても、私にトリックを解くセンスが全くないのが泣けてきますね!

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

つみれ

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