D坂の殺人事件

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2022.05.18)

【感想】「D坂の殺人事件」/江戸川乱歩:名探偵・明智小五郎が初登場する短編!

こんにちは、つみれです。

このたび、江戸川乱歩(エドガワランポ)さんの短編「D坂の殺人事件」を読みました。

 

日本家屋で発生する密室事件に名探偵・明智小五郎(アケチコゴロウ)が挑む短編ミステリーです。

 

本記事は『江戸川乱歩傑作選』所収の一編「D坂の殺人事件」について書いたものです。

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
短編名:D坂の殺人事件(『江戸川乱歩傑作選』所収)

著者:江戸川乱歩
出版:新潮社(1960/12/27)
頁数:36ページ

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名探偵・明智小五郎のデビュー戦!

名探偵・明智小五郎のデビュー戦

私が読んだ動機

本編が収録されている『江戸川乱歩傑作選』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年4月の課題図書だったので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 名探偵・明智小五郎が初登場する物語を読みたい。
  • 日本家屋が舞台の密室トリックを楽しみたい。

あらすじ・作品説明

下宿住まいの「私」はD坂にある喫茶店・白梅軒(ハクバイケン)で、向かいにある古本屋の様子を窺うことを楽しみとしていた。

 

よく店番をしている妻がなかなかの美人であることに加え、最近知り合った明智小五郎という男の幼馴染であったからである。

 

ところがある日、私がいつものように古本屋を覗いていると、何やら様子がおかしい。

 

古本屋では常に店内を見張ることができるように奥の部屋の障子が開きっ放しになっているのだが、この日に限って障子が閉じたままなのだ。

 

これでは万引きされ放題である。

 

古本屋の様子を見に、店内に押し入ってみるとそこには件の妻の死体があった。

名探偵・明智小五郎が初登場

虫眼鏡とペンと電卓

本作「D坂の殺人事件」は、日本で生まれた名探偵のなかでも屈指の知名度を誇る「明智小五郎」が最初に登場した作品です。

短編としてほどよい36ページという分量でお手軽に本格的な謎解きを楽しめます。

「明智小五郎」シリーズを読みたい人は第一作目に当たる本作から入るのがおすすめですよ。

探偵役とワトソン役

たくさんの古書

本作は、「探偵役とワトソン役」が登場するミステリーの基本形とも言える物語になっています。

配役は下記の通り。

  • 探偵役:明智小五郎
  • ワトソン役:私(語り手)

明智小五郎はなかなか食えない性格をしていて非常にクセのある人物ですが、これはミステリー小説における探偵役の典型。

一方、語り手の「私」は、基本的に謎解きがあまり得意でない代わりに一般的な感覚を持ち合わせている常識的な人物。

読者の立場に近いところで事件を見、ときに読者の考えを代弁してくれる有能なワトソン役が「私」です。

 

「クセの強い探偵役と常識的なワトソン役」という人物造形がミステリーとして気持ちいいほどに典型的でわかりやすいのがよかったですね。

 

本格ミステリーの基本形をしっかり押さえた読みやすい短編なので、ミステリーに慣れていない人にもおすすめの一編ですよ。

悪趣味な主人公と事件

純喫茶のコーヒー

本作の主人公「私」は、D坂にある白梅軒という喫茶店で、道路を挟んで向かいの古本屋の様子を窺うのをひそかな楽しみとしています。

というのは、よく店番をしている古本屋の妻が、最近喫茶店で知り合った明智小五郎という人物の幼馴染だと聞かされたからです。

オマケにその古本屋の妻というのが「なかなかの美人」。

 

それを理由に向かいの喫茶店から覗き見をしている私の趣味はお世辞にもいいとは言えませんが、そのおかげで事件が発覚するのです。

 

ちなみに作中では「D坂」とぼかされていますが、これは東京文京区本郷「団子坂」のこと。

土地鑑がある人は本作をより楽しめるかもしれませんね。

古本屋で起こる不審な事件

古本屋

まことに不届き千万なことに、本屋というのは今も昔も変わらず万引きが多かったようです。

作中でも古本屋の妻は奥の部屋にいるときには万引き対策として障子を開けっ放しにしておき、常に店内を見張ることができるようにしていました。

ところが、いつものように「私」が喫茶店から古本屋の様子を窺っているある日、この障子が閉まったのです。

当然のことながら、無防備状態の古本屋店内はハイエナのように万引き犯が集まり、その数なんと4名。

そんな状態であるにもかかわらず、古本屋の妻は障子の奥に引きこもったまま一向に出てきません。

さすがに異常を感じ取った「私」と明智小五郎は、喫茶店を飛び出して古本屋に乗り込んでみると、なんと障子の奥の部屋で古本屋の妻が死んでいるのが見つかります。

喫茶店からの覗き見とはいえ、ずっと「私」の監視状態にあった古本屋の奥の部屋で起きた凄惨な事件。

 

これは興味深い謎でワクワクしますね。(不謹慎)

 

日本家屋が舞台の本格ミステリー

モノクロの坂

「D坂の殺人事件」は、日本家屋が舞台の本格ミステリーです。

作者の江戸川乱歩さんは木と紙でできた日本家屋では海外ミステリーのような密室ミステリーが成立しづらいことを懸念していたそう。

本作に登場する古本屋は典型的な日本家屋である「長屋」の一室。

「私」が喫茶店から監視している状態の日本家屋で起きた密室事件を描く、乱歩の挑戦的ミステリーなのです。

最近では純粋な日本家屋も減ってきており、近年描かれた本格ミステリーでこの問題が表出することも少なくなってきました。

 

今となっては「日本家屋を舞台とする密室もの」はよりいっそうめずらしいものとなっていますので、ぜひ本作の独特の雰囲気を味わってみてくださいね。

 

事件編と解決編

閃きの電球

「D坂の殺人事件」は前編・後編に分かれており、それぞれ下記のようにタイトルがつけられています。

  • 前編:事実
  • 後編:推理

前編は起こった事件についての事実が描かれていて、後編はその解答に当たる構成です。

短い物語でありながら事件編と解決編に分かれており、れっきとした本格ミステリーとなっています。

 

謎解きに自信がある人はぜひ挑戦してみてください。

 

終わりに

「D坂の殺人事件」は、日本家屋で発生する密室事件に名探偵・明智小五郎が挑む短編ミステリー。

36ページという短編ながら、前編・後編も分かれているれっきとした本格ミステリーです。

 

そして何より、日本を代表する名探偵「明智小五郎」初出の物語ですので、シリーズを追っていきたい人には特におすすめの一編ですよ。

 

本記事を読んで、江戸川乱歩さんの「D坂の殺人事件」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『江戸川乱歩傑作選』を手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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