こんにちは、つみれです。
このたび、町田そのこさんの『星を掬う』を読みました。
かつて自分を捨てた母・聖子と奇妙な共同生活を送ることになった千鶴が、いろいろな問題に触れていくなかで精神的に成長していく姿を描いた一冊です。
本作は、2022年本屋大賞ノミネート作でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2022年本屋大賞ノミネート作をまとめています。
作品情報
書名:星を掬う
著者:町田そのこ
出版:中央公論新社(20211/10/18)
頁数:328ページ
スポンサーリンク
目次
賛否両論に分かれるさまざまな母娘の物語!
私が読んだ動機
2022年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 母娘の物語を読みたい
- 現代社会が抱える問題に興味がある
- 賛否両論で分かれる物語を味わいたい
あらすじ・作品説明
パン工場で働く芳野千鶴はラジオ番組の賞金目当てに、とある夏の思い出を投稿。
自分を捨てた母・聖子との関係がまだ良好だった幼少期、母娘で各地を旅した古い記憶を投稿したのだ。
その放送を聞いて千鶴の前に現れたのは、聖子の娘を名乗る女性・恵真だった。
紆余曲折を経て、千鶴は母・聖子や恵真らと奇妙な共同生活を送ることになる。
さまざまな母娘の物語
本作『星を掬う』は、さまざまな母娘の関係を描いた長編小説です。
物語序盤で、主人公の芳野千鶴はかつて自分を捨てた母・聖子と再会し、一緒に生活するようになります。
再会した聖子は「さざめきハイツ」と呼ばれる建屋で、千鶴を共同生活に引き込んだ美しい女性・恵真や家事全般をとりしきる彩子らと共同生活を送っていました。
千鶴としては不本意ながらもその生活の輪に参加していくことになるわけです。
千鶴と聖子の関係は言うに及ばず、物語が進行すると、恵真や彩子も何かしらの形で「母娘」の問題を抱えていることが判明。
本作はさまざまな母娘の姿を通して、複雑な人間関係を描き出しています。
彼女らの人間関係の変化と個々の成長は本作のテーマの一つですね。
自責思考と他責思考
本作では主人公の芳野千鶴をはじめとした複数の女性の成長を描いています。
成長を描くということは、物語序盤の彼女らはどこか未熟な部分があるということ。
その彼女らの未熟さを象徴するのが、極端な「自責思考」「他責思考」だと私は思います。
「自責思考」とは何か問題が起きたときにそれを「自分の責任だ」と考えてしまう思考的傾向のことです。
一方、「他責思考」とは問題が発生したときに、それを「自分以外のせいだ」と考えてしまう思考的傾向のことですね。
自責と他責のバランス
本作を読んでいると、「自責思考」及び「他責思考」の善悪について考えさせられます。
日本の場合、自責思考の持ち主がもてはやされる傾向にあるかもしれませんが、これは必ずしも正しいとは言えません。
例えば、自責思考の人は「ミスをした人物に対してそのミスを指摘する方向に動かず、自分がうまくフォローしなかったからだ」と考えてしまったりします。
これだとミスをした人物が育たないし、何より自分の心に負荷がかかりますよね。
一方、他責思考が基本的に嫌われてしまうのは、それが「責任転嫁」に他ならないからですが、これも一概に悪いとは言えないのです。
どうしようもないほど精神的に追い詰められたとき、他責思考をすることでしか自分の心を守れないこともありますよね。
つまり、「自責思考」「他責思考」は安易に善悪という尺度では測ることができず、あくまでもバランス次第ということだと思います。
自分を客観的に見直す機会に
本作では「自責思考」「他責思考」について、それぞれ両極端のような人物が多く登場します。
主人公の千鶴も、現実がうまくいかない理由をすべて「母に捨てられた過去」に求めるところがあり、どうしても極端な他責思考に思えてしまいます。
読者として物語序盤の彼女らの言動を客観的に見ていると、「そんな考え方をしちゃダメだよ」と思わず声をかけたくなってしまうほど。
しかし、それは彼女らの言動がわかりやすいほど極端に描かれており「行き過ぎた他責思考・自責思考の悪い点」が顕著に現れているからです。
本作の登場人物たちは客観的に捉えやすいように描かれているだけで、よくよく考えると自分でも似たような言動をしているかもしれません。
登場人物の言動を反面教師的に見ることで、自分の言動を見直すきっかけになる一冊になるかもしれませんね。
スポンサーリンク
現代社会が抱える問題を描く
本作は、下記のような現代社会が抱える難しいトピックをテーマとして多く扱っています。
- DV(ドメスティックバイオレンス)
- 介護問題
- 未成年の出産
- SNSの危険性
ただし作品のなかでその答えを出しているのではなく、あくまで問題提起にとどまっており、「読者に対する問いかけ」の側面が強い作品だと思いました。
本作で登場する多くの問題も作中で一応の解決を見るものの、それが完全に正しい答えかというとそうでもないんです。
作中で描かれているのはあくまで登場人物たちが出した答えの一つにすぎず、これらの問題について読者に考えることを促してくるような内容となっています。
疲れる読書
私は本の感想を書くとき、基本的にその本のいいところをメインに書くことにしています。
どんな本にも良いところがあると思っているし、「この箇所が良かったのでみんなにも読んでほしい」のスタンスで記事を書いているからです。
しかし、本作についてはあえて欠点も書いていきます。
正直に言うと、非常に疲れる読書でした。
あえてこれを書くことにしたのは、著者の町田そのこさんが「疲れる読書」になることを織り込み済みで本作を書いたように思えてならないからです。
本作に登場する女性たちは、程度の差こそあれ、みんな心に闇を抱えています。
その闇の深さは他人にはカンタンに想像できない種類のものばかり。
こういう女性たちの辛さとそれを打開するためにとった行動を文章で読んだとき、下記のようなさまざまな問いが脳裏をかすめました。
- 周りの人間はどう動くべきなのか
- 自分だったらどう行動するか
- 登場人物たちの出した答えは正しいのか
本作は著者が提起した問題について「読者が悩むことを促している」小説だと感じました。
だから、私にとっては、非常に頭を使うし疲れる読書となりました。
合わない人もいるかも
ハッキリ言いますと、この小説が合わないと感じる人もいると思います。
それくらい賛否両論で分かれる作品だと感じました。
しかし、それは「本作が合わない」のでなく「今は時期が合わない」と考えてみてほしいです。
あとで改めて読んでみると、思いのほか心に刺さる描写があるかもしれませんよ。
クズ男がいっぱい
本作の特徴として、物語に登場する男性はクズみたいな人物ばかりだということ。(一部例外あり)
私が一人の男として本作を読んでいて、どうにも居心地の悪さを感じてしまったのはこれが原因です。
とりわけ千鶴の元夫として登場するDV男・弥一がとんでもないクズ野郎なんですよ。
DVの常習犯であるだけでなくストーカー気質も持ち合わせており、千鶴を精神的に追い詰めまくる人物として描かれていて、正直、男の私から見ても気持ち悪い存在でした。
下記の記事によると作者の町田そのこさんは「クズ男って、書いていて楽しい(笑)」と語っており、そのクズ男描写の筆の乗りっぷりも納得。
作者の筆力がこもったクズ男たちの活躍(?)も本作の見どころの一つなので、本作を読むときはそんなところにも注目してほしいと思います。
『星を掬う』の素敵なつぶやき
『星を掬う』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。
#読書好きな人と繋がりたい #読了 #町田そのこ
⭐️星を掬う
DV男の執拗な付き纏い、毒親の呪縛、私を捨てた認知症の母、読むのが辛い。大切なのは、自分を見下げて自分の人生をひとに明け渡さないこと。自分の人生を守ること。最後まで読んで良かった。光が見えた。🌟 pic.twitter.com/kPEqTymPTs— Pipi (@Pipi34201781) February 13, 2022
町田そのこさんの 星を掬う
すごくドキッとする言葉が沢山あって刺さる。
人生が考え方変わる本に出会ったかもしれない。
続きはまた明日。
読み終えるのが、勿体ないと感じるのはいつぶりか。— 小鳥 (@kotori_book) March 16, 2022
星を掬う|町田そのこ
「普通」の関係を築けなかった母娘の再生の物語。
生に対する責任を、他人に押し付け縋ることは、時に一種の暴力となり得るんだなと。だからってその責任だけが悪い訳でもないし、難しいなー。生きることの基盤に親がいることも事実だし、うん難しい。#読了 pic.twitter.com/BHtdir1cP4
— 付箋 (@ienonakanozz1) March 15, 2022
※電子書籍ストアebookjapanへ移動します
終わりに
『星を掬う』は、自分を捨てた母・聖子を含む数名の女性たちと奇妙な共同生活を送ることになった千鶴の精神的成長を描いた一冊です。
現代社会が抱えるさまざまなトピックを織り交ぜており、安易に答えを出せない問題について考えるきっかけを与えてくれる一冊でもありました。
本記事を読んで、町田そのこさんの『星を掬う』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
スポンサーリンク