皇帝と拳銃と

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『皇帝と拳銃と』/倉知淳:死神刑事が謎を解く倒叙ミステリー!

こんにちは、つみれです。

このたび、倉知淳(クラチジュン)さんのミステリー連作短編集『皇帝と拳銃と』(東京創元社)を読みました。

 

収録された4編すべてが倒叙ミステリーという連作短編で、なかなか時間泥棒的な作品でした。

「倒叙ミステリー」については、記事内で説明しているよ!

 

それでは、さっそく感想を書いていきます。

ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

本作の文庫版が発刊されていますが、本記事の引用箇所は単行本当時のものです。

作品情報
書名:皇帝と拳銃と

著者:倉知淳
出版:東京創元社(2017/11/30)
頁数:356ページ

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死神みたいな刑事が犯人を追い詰める!

死神刑事が謎を解く倒叙ミステリー

私が読んだ動機

インターネットでおもしろそうなミステリーを探していて発見しました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 倒叙ミステリーが好き
  • 長編より短編集が読みたい気分
  • 魅力的なキャラクターが登場する小説が読みたい

倒叙ミステリーを扱う短編集

本作『皇帝と拳銃と』は倒叙ミステリーです。

普通のミステリーは、まず事件が起きて「謎」が発生し、それを探偵役が捜査することで少しずつ謎を解体していくことで犯人をあぶり出していきます。

ところが倒叙ミステリーでは、いきなり冒頭で犯人の犯行シーンが描かれます。

犯人がどこの誰で、どんな状況で犯罪が実行されたのかということが、最初から読者に知らされているのが特徴といえます。

 

展開が普通のミステリーとは逆になっているので「倒叙」と言います。

「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」でよく知られたスタイルなんですよ。

 

「最初から犯人がわかっているミステリーなんておもしろいの?」と感じてしまうかもしれませんが、倒叙ミステリーのおもしろさは犯人当てではありません。

犯人が苦心して作り上げた「完全犯罪」という状態を、いかに突き崩すか?

探偵役が矛盾点を見つけることで、完全犯罪であったはずのものが次第に完全犯罪ではなくなっていく。

そして犯人は徐々に追い詰められていく。

完全犯罪を成し遂げたはずの犯人は、一体どこでミスしてしまったのか!?

 

そういうロジックの過程を楽しむミステリーということになります。楽しそうでしょ?

 

そして本作『皇帝と拳銃と』はこの倒叙ミステリーが4編収録された短編集なのです。

全編、最初に犯行シーンが描かれているんです!これはワクワクしますね!

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刑事役が死神である

カラス

本作の特徴の一つに登場人物が魅力的だというのがあります。

殺人事件を捜査する刑事のコンビが登場するのですが、一人が若手イケメン刑事の鈴木(スズキ)くん。

彼もなかなか魅力的なキャラクターなのですが、もう一人の刑事が個性的というか、強烈すぎるのです。

それが「死神のような」刑事、乙姫(オトヒメ)警部です。

キャラクターと名前が激しくアンマッチな時点で「お前ふざけているのか?」と言いたくなりますが、この乙姫警部の死神描写がしつこいくらいに描かれていて噴き出しそうになるんですよ!

すこし引用してみましょう。

特殊メイクの映画やイラストなどで見る死神のイメージが、そっくりそのまま具現化している。削ぎ取ったように痩せた頬、鋭角的に鋭い顎、悪魔を思わせる鉤鼻、尖った大きな耳――そして何より、その目。暗く深く、虚無の深淵を覗き込むがごとく、陰気で表情の感じられない瞳。黒い洞穴のようなその目が、恐ろしい〝死神〟の印象を最大限に強めている。<span class="su-quote-cite">『皇帝と拳銃と』kindle版、位置No. 191</span>

これが刑事かよ!と突っ込みたくなります。

どう見ても犯罪者属性ですが、刑事なんですよ。

しかも名前が乙姫ですからね。浦島太郎も脱兎のごとく逃げ出すでしょう。

彼を修飾する言葉がやけに凝っているのがまたおもしろいんです。

  • 「煉獄の操り人形」
  • 「暗黒物質を練り固めて凝らせたみたいな」
  • 「地獄の瘴気みたいな陰気なムード」

地獄の瘴気には笑いましたね。

よくもまあ、こんなにたくさんの闇属性ワードを探してきたなと思ってしまいます。

さらにこの警部の動作を表す形容詞として頻出するのが「うっそり」という言葉。

最初見たときは珍しい言葉を使うんだなあ、くらいに思っていましたが、その後、何度となくこの警部がうっそりするので、もう笑ってしまいます。

これほど「うっそり」という言葉を見聞きしたのは人生初ですね!

・・・乙姫警部、いいキャラしています!

読み進めるうちにだんだんと、乙姫警部の「頼もしさ」がわかってくるはずです!(犯人視点の倒叙ミステリー的には「恐ろしさ」といってもいいかもしれません)

謎解きの品質

本の上に載っている虫めがね

収録されている4編は下記の通りです。

  • 運命の銀輪
  • 皇帝と拳銃と
  • 恋人たちの汀
  • 吊られた男と語らぬ女

このうち最初の2編「運命の銀輪」「皇帝と拳銃と」については、偶然の要素が強すぎたり、読者が知り得ない情報を終盤で明らかにしてつじつま合わせをしているような印象で、本格的に謎解きに挑もうとすると難しすぎるかなという感じでした。

ただ、物語として読むなら両編ともかなりおもしろいです。

なによりすばらしいのは後半の2編、「恋人たちの汀」と「吊られた男と語らぬ女」ですね!

あまりここで語ってしまうとネタバレになってしまいそうで怖いのですが、「恋人たちの汀」は謎解きの見事さ、「吊られた男と語らぬ女」は構成の見事さがウリです。

私が倒叙好きというのもあるかもしれませんが、全体としてはものすごく楽しめた短編集でした。

前半2編は物語を、後半2編は謎解きを楽しむつもりで読むといいかもしれません。

各話のタイトルがタロットカードに由来しているのもあって続編を期待してしまうのですが、果たしてどうなのでしょうか?

個人的には乙姫警部の謎解きをもっと見てみたいという気持ちですね!

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

ネタバレ成分を多く含むコーナーです。

今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減するよ!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

各短編について、読んでいるときにどんなことを思ったのか、みたいなことをもう少しだけ突っ込んで書いてみます。

運命の銀輪

本短編集の1編目は「運命の銀輪」です。

偶然の要素が強すぎる作品と上の方で書いてしまいましたが、よく読み込んでみると、「偶然」ということをテーマにしているようにも見えるんですよね。

「偶然」訪ねてきた宅配便をアリバイに利用しようとする伊庭にしてもそうだし、「偶然」のなかに「故意」を織り込んだ乙姫警部のワナにしてもそうですね。

タイトルにある「運命」という言葉が、「偶然」が重なる本短編のなかではなんともいえない皮肉さを伴います。

なにはともあれ、「偶然」という要素はどうしてもアンフェア属性に寄ってしまいがちですから、ミステリーとの相性はあまりよくないという印象はありますね。

皇帝と拳銃と

本作2編目は表題作でもある「皇帝と拳銃と」。

これは本気で解こうと思ってもなかなか解けないのではないでしょうか。

伏線は「さりげなく、しかし大胆に」というのが大事で、読んでいる側が「あ~、そんな記述あったな」と思い出せるくらいしっかりと記憶に残っていることが後の驚きに繋がるんですよね。

本短編の伏線は、さりげなすぎるんです。

堂々と姿をさらしつつ伏線と感じさせないのではなく、読者に見つからないように姿を隠しているような感じなんですよね。

これでは、「あ、あれが伏線だったのか!」という衝撃に繋がらず、なんとなくつじつま合わせのように見えてしまって、アンフェアに感じられてしまうわけです。

ただ、“皇帝”稲見教授はとてもいいキャラクターだなと思いました。個人的には大好きです。

恋人たちの汀

本短編集3作目は「恋人たちの汀」です。

本書のなかではこの作品が傑出しており、謎解きのプロセスがあまりに見事です。

被害者がどうしようもないヤツで、加害者に肩入れしたくなるのも倒叙ミステリーらしくていいです。

すばらしい完成度を誇っています!

吊られた男と語らぬ女

本作4編目は「吊られた男と語らぬ女」。

まさに構成の勝利です。

本短編が4編の最後を飾っているというのが大事で、本書が「倒叙ミステリーを扱った連作短編である」ということ自体を仕掛けに使っています

この仕掛けを見たとき、ミステリー作家というのは本当にすごいなということを改めて肌で感じました。

一度しか使えない大技ですが、本書の満足度自体を向上させるすばらしい演出です!

終わりに

私は倉知淳さんの作品というと、本作の他には『星降り山荘の殺人』くらいしか読んでいませんが、本作は倉知さん初の倒叙作品だったのですね。

前2編については少し厳しいことも書いてしまいましたが、おもしろかったのは間違いないです。

やはり乙姫警部のキャラクターがいいですね!

続編も書いてほしいなぁ、とか思ってしまいますが、はたしてどうでしょうか。

うっそりと待ちたいと思います(*´з`)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

つみれ

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