こんにちは、つみれです。
このたび、麻耶雄嵩さんの『夏と冬の奏鳴曲(新装改訂版)』を読みました。
舞台は、かつてとある女優の求心力により奇妙な共同生活が行われていた絶海の孤島。
20年の時を経て再び孤島に集まったメンバーたちが惨劇に襲われる長編ミステリーです。
また、「メルカトル鮎」シリーズの2作目でもありますね。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:夏と冬の奏鳴曲 新装改訂版(講談社文庫)
著者:麻耶雄嵩
出版:講談社(2021/10/15)
頁数:768ページ
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目次
雪が降る夏の孤島で繰り広げられる邪道ミステリー!
私が読んだ動機
- 前作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』がおもしろかったから。
- 新装改訂版が発刊されたから。(2021年10月)
こんな人におすすめ
- 邪道な本格ミステリーを読みたい
- 変わった作品が好き
- クローズドサークルが好き
- 解釈が分かれる作品が好き
- 長編ミステリーを読みたい(750ページ超)
- 前作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』がおもしろかった
あらすじ・作品説明
20年前、間宮和音という一人の若い女優がいた。
彼女の魅力に憑かれた六人の男女が、和音とともに日本海に浮かぶ孤島で共同生活を送るようになった。
その島は「和音島」と呼ばれた。
しかし、和音の死亡に伴い共同生活は瓦解し、男女はそれぞれの人生を歩むことに。
月日は流れ、20年ぶりの同窓会が「和音島」で開かれることになり、その取材のため雑誌記者・如月烏有は彼らに同行する。
真夏の孤島に雪が降るという異常な情景のなかで首なし死体が発見され、同窓会は惨劇の場と化していく。
750ページの長編
本作『夏と冬の奏鳴曲』は文庫本で750ページに迫ろうかという長編ミステリーです。
ボリュームたっぷりなので、時間があいて内容を忘れてしまうことがないように一気に読みたい一冊ですね。
ある程度まとまった時間が取れるときに読むのがおすすめです。
メルカトル鮎シリーズ
本作『夏と冬の奏鳴曲』は、麻耶雄嵩さんの「メルカトル鮎」シリーズの第二作目に当たります。
前作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』の続編になりますので、可能な限り前作読了後に読むことをおすすめします。
「メルカトル鮎」シリーズを銘打っているものの、なかなか彼が登場しないのも前作同様。
まさに“銘”探偵の異名に恥じない扱いと言えますね。
「メルカトル鮎はいつ登場するのか?」と期待しながら読むのも一興ですよ。
「木更津悠也」シリーズも並行で楽しもう
「メルカトル鮎」シリーズは、麻耶雄嵩さんのもう一つの探偵「木更津悠也」シリーズと世界観を共有しており、お互いが絡み合っています。
前作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』はメルカトルと木更津が共に登場する「二つのシリーズの起点」ともなる作品です。
両シリーズを併せて一つのシリーズとみなして刊行順に読んでいくと、その世界観を最大限に味わうことができて良さそうですね。
邪道のミステリー
麻耶雄嵩さんは、王道を外れた変化球のミステリーで読者を楽しませる名手です。
本作『夏と冬の奏鳴曲』もその例に漏れず邪道中の邪道。
邪道すぎて、誰彼なしに薦めるのはためらわれるのですが、個人的にはかなりおもしろかったという困った作品です。
本格ミステリーとして最低限の体裁を保ちつつも、読む人をおちょくったような突飛な仕掛けを数多く盛り込んでいるんですね。
王道の本格ミステリーを期待している人には非常におすすめしづらく、およそ大衆受けするような作品ではありません。
また、ミステリーの様式美やお約束を知っていることが前提のような作りになっていて、ミステリー初心者にもあまり積極的におすすめできません。
では、つまらないのかというと全くそんなことはなく、「変化球が好きな人」「王道に飽きた人」におすすめの一作となっています。
変化球好きにおすすめ
本作は「風変わりな作品」「衒学趣味の色濃い作品」が好きな人なら大いに楽しめそうな変化球属性の作品です。
終盤の展開や真相が突飛で度肝を抜かれますが、描かれている事件自体は本格ミステリーとしてしっかりと成立するラインを攻めています。
なので、下記に当てはまる人なら本作を大いに楽しむことができそうです。
- 本格ミステリーをそこそこ読み込んでいる
- 邪道好き
いずれにしても、かなり読む人を選ぶ作品と言えるでしょう。
ちなみにこの作品、私はめちゃくちゃ好きですね。
ミステリーとしてのおもしろさ
上で、本作が邪道であることを書きましたが、ミステリーとしてのおもしろさは十二分に担保されています。
まず、下記のように本格ミステリーの醍醐味がしっかりと盛り込まれているのがかなりうれしいですね。
- 孤島(クローズドサークル)
- 首なし死体
- 雪の足跡
作品自体が読者を突き放すような不可解さを持っているため誤解されがちですが、謎解き・トリックのロジック部分は極めて巧緻に作られていて単純にミステリーとしておもしろい!
一部のトリックは反則スレスレのぶっとんだものもありましたが、それも含めておもしろかったです。
クローズドサークル
本作は主人公たち一行が絶海の孤島に閉じ込められるクローズドサークル・ミステリーです。
クローズドサークルの説明は下記の通り。
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 Wikipedia「クローズド・サークル」
外界との連絡手段が絶たれることも多い。
サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。
「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。
クローズドサークルの典型例は上に書いた通り「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などが挙げられますが、本作はさしずめ「雪の孤島」といったところ。
夏の島でありながら雪が降るユニークな舞台設定が魅力のクローズドサークルです。
夏なのに雪が降る孤島
本作のおもしろい点の一つは、主人公たちの置かれたの状況設定。
真夏でありながら雪が降る孤島というイレギュラーさが魅力です。
この演出のおかげで内容は本格ミステリー属性ながら、どこか幻想的な異世界じみた空気が流れていて、舞台は不穏さに包まれています。
さらにおもしろいのが「真夏の雪」というユニークな要素が舞台演出にとどまらず、謎解きにも大いに絡んでくるということ。
主に下記の三点が魅力ですね。
- 雪の足跡トリック
- 夏なので雪の融解が速い
- 真夏の雪という異常気象を事前に予測できない(犯人は手の込んだトリックを仕掛ける時間的余裕がない)
全体を通して荒唐無稽であることは間違いありませんが、だからといって決して行き当たりばったりなのではなく、むしろミステリーの構造としては巧緻を極めています。
本作を貫く邪道さは既存の本格ミステリーに対する強烈なアンチテーゼでありながら、本格ミステリーとしての体裁をしっかりと保っているんですよ。
本作が「怪作」「問題作」と言われる理由はこういうところにありそうです。
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主人公・如月烏有
『夏と冬の奏鳴曲』の主人公は如月烏有という青年。
彼はアシスタントの舞奈桐璃とともに部外者ながら「和音島」の同窓会に同行することになる記者です。
この烏有の性格に若干とっつきにくいところがあり、これも本作の好き嫌いが分かれる一因になりそうです。
過去に経験した「とあるできごと」からくるトラウマが彼の性格に暗い影を落としています。
そのせいか彼の言動の端々に卑屈さが垣間見え、読んでいて鬱屈とした気分になってしまうんです。
私はどちらかというと苦手なタイプの主人公でしたが、これは好みの問題のレベルだと思います。
間宮和音
本作の最重要人物の一人が間宮和音という女優です。
彼女は20年前に6人の男女を強烈に魅了し、「和音島」での共同生活の中心に位置した人物です。
彼女の死をきっかけに奇妙な共同生活は終わりを告げるわけですが、彼女の周辺事情は非常に謎が多い。
- 人となり
- 6人の男女との関係性
- 死亡時の状況
「和音の死からちょうど20年後の同窓会」という登場人物たちの目的から考えても、彼女の人物像が見えてこないのは不審です。
間宮和音という人物自体が本作最大の謎と言っても過言ではありません。
キュビスム
本作では重要な要素として「キュビスム」という美術用語が登場します。
キュビスムは近代美術に影響を与えた革新運動の一つで、その作風が物語に大きく絡んできます。
私は美術に疎く、本作を読んで初めてこの言葉を知りました。
もしかしたらそういう人も多いかもしれませんね。
しかし、本作を読むにあたって事前にキュビスムの知識を入れておく必要は全くありませんので安心してください。
麻耶雄嵩さんがしっかりと周辺知識を説明してくれます。
ただ、キュビスムについて作中で語られる箇所に差し掛かったら、その説明にあわせて実在のキュビスム作品をネットで検索しながら読むとより本作を楽しめますよ。
やっぱり美術作品を文章を読むだけで理解するのは難しいんですよね。
実際に作品を見ながら説明を読んだほうがはるかにイメージしやすく、物語の理解度も高まります。
読了後の楽しみ
正直なところ、本作はかなり難解な一作です。
事件としては一応の解決を見ますし、その経過を理解することも決して難しくないのです。
ただ、物語としての完全な解答が作者から与えられず、作中で語られていない部分がある感じなんですよ。
その部分の解釈は読者個々人に委ねられているようなフワフワした読後感です。
本作読了済の読者による議論・考察が白熱しているのも大いにうなずける内容でしたね。
考察サイトを巡ってみよう
本作は、読み終わったら自分なりに「真相はこうではないか?」と考察したり、複数の考察サイトをハシゴしたりして「読了後の楽しみ」に浸るのが醍醐味の一冊です。
本作を読んでいる最中には気づかなかった伏線や繋がりなどを発見でき、深い満足感をもたらしてくれることうけあいですよ。
実際、私も読了後に複数の考察サイトを読み、自分では気づけなかった要素を知るに至り、改めて本作の深さ・緻密さにうなりました。
当ブログはあくまで「これから読む人向け」に書いているので、考察は行いません(というか私にはできない・・・!)。
でも、本作は読了後にいろいろな考察に触れるところまでやっていよいよ味わいつくしたといえる作品という気がしました。
一つ言えることは、「良くわからなかった」で終わらせてしまうと非常にもったいないということ。
たとえ「どういう真相なのか」というところに届かないとしても、麻耶雄嵩さんが仕掛けた巧緻な罠の部分はぜひとも味わってもらいたいです。
普通に読むだけだと気づかずに読み飛ばしてしまう要素もかなりあるので、読了後に考察サイト等を巡って本作の余韻に浸る楽しみを味わってくださいね。
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終わりに
『夏と冬の奏鳴曲』は雪の降る夏の孤島で主人公たち一行が惨劇に巻き込まれるクローズドサークル・ミステリーです。
いかにも麻耶雄嵩さんらしい邪道の展開は賛否が分かれそうですが、ハマる人にはハマるニッチなおもしろさがあります。
本記事を読んで、麻耶雄嵩さんの『夏と冬の奏鳴曲』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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