こんにちは、つみれです。
このたび、佐藤究さんの『テスカトリポカ』を読みました。
麻薬カルテルの抗争や臓器売買などが描かれるアングラ感マックスの長編クライムノベルです。
また、第165回直木賞候補作にノミネートされた作品でもあります!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
※2021年7月14日追記
第165回直木賞は、本作『テスカトリポカ』と、澤田瞳子さんの『星落ちて、なお』が受賞しました。
佐藤究さん、澤田瞳子さん、おめでとうございます!!
▼第165回直木賞候補作をまとめています。
作品情報
書名:テスカトリポカ
著者:佐藤究
出版:KADOKAWA(2021/2/19)
頁数:560ページ
目次
骨太なクライムノベル!
私が読んだ動機
第165回直木賞候補作にノミネートされたので読みました。
こんな人におすすめ
- バイオレンスな作品を読みたい
- 麻薬カルテルや臓器売買を題材にした小説が読みたい
- アステカ文明に興味がある
- 直木賞候補作が読みたい
あらすじ・作品説明
メキシコの麻薬カルテル「ロス・カサソラス」は新興の対立組織との抗争で壊滅。
幹部のバルミロ・カサソラはメキシコを脱出し、再起を図る。
一方、メキシコの麻薬カルテルに苦しめられたメキシコ人女性を母に持つ川崎の少年土方コシモは、類まれな腕力と手先の器用さの持ち主。
コシモはその能力をバルミロに見出され、大きな犯罪に手を染めていく。
骨太なクライムノベル
本作『テスカトリポカ』は犯罪を扱った骨太なクライムノベルです。
とにかくバイオレンスな作品で、良くも悪くも残酷な描写が多いんですよね。
なので、残酷な描写が苦手な人にはおすすめできず、どうしても読む人を選ぶところがあります。
しかし、本作はただのクライムノベルではなく、物語の随所にアステカ神話が絡んできます。(アステカについては改めて下のほうで書きます)
残酷な描写もアステカ流の解釈が絡んでくるおかげで呪術的・儀式的な色彩が濃く、どこかファンタジックな印象すら受けました。
メキシコのメソアメリカ流の犯罪美学とアステカの呪術的要素が絡んだ残虐性は確かに目を覆うほどに残酷ではあるのですが、遠い世界のできごとのようにも感じられるんですよね。
そういったこともあり、残酷な描写が苦手な私でも本作は特に抵抗なく読み進めることができました。
分厚い長編小説
本作『テスカトリポカ』はなんと550ページ超え!
なかなか迫力のある分厚さですね!鈍器です。
私はハードカバーの単行本を読むときは専用のブックカバーをかけるのですが、分厚すぎてブックカバーをかけるのに苦労したほど。
せっかくだからきれいに読もうと思ってブックカバーをかけるのですが、このブックカバーをかける行為自体が一番キケンというくらいに分厚かったんです。
ブックカバーをかけるときは慎重に行いましょう。
コシモとバルミロ
『テスカトリポカ』には多くのキャラクターが登場し、複数の人物の行動を追っていくことになります。
そのため、最初は誰を主人公として読めばいいのかわからず、若干混乱するかもしれません。
しばらく読み進めていくと、最終的に下記の二人がメインキャラっぽいぞ、となってきます。
それが「土方コシモ」と「バルミロ・カサソラ」の二人です。
土方コシモ
本作の冒頭で語られるのはルシアというメキシコの少女の物語。
麻薬カルテルの抗争に振り回されるメキシコでの悲惨な生活から逃れるため、ルシアは単独で日本への脱出を実行。
それから紆余曲折あって日本の暴力団幹部土方興三の妻の座に納まり、一子を儲けます。
この子が本作のメインキャラの一人「土方コシモ」です。
彼には二つの特徴がありました。
手先の器用さと化け物じみた腕力です。
コシモは母ルシアからネグレクトを受け、孤独な少年時代を過ごします。
そして彼はある日、決定的な犯罪を犯してしまうのです。
バルミロ・カサソラ
「バルミロ・カサソラ」は、メキシコの麻薬カルテル「ロス・カサソラス」を巨大化させたカサソラ兄弟の三男です。
ところが急成長してきた新興の麻薬カルテル「ドゴ・カルテル」に家族を殺され、組織を壊滅に追い込まれてしまいます。
バルミロは「ドゴ・カルテル」への復讐を成し遂げるため、国外へ脱出。
その過程で彼はさまざまな闇社会の有能な人間たちと出会い、新たな組織を作っていきます。
本作の登場人物のなかでも、バルミロのスマートで圧倒的な悪の描写はかなり印象的。
祖母の薫陶を受けアステカの精神を骨の髄まで叩き込まれたバルミロは、一般的な人間が持つ感覚や感情が欠落していて、底の知れない静かな恐ろしさがあります。
これが彼の怖さを純粋に増幅させているし、一種のカリスマ性すら帯びさせているんですよね。
本作を読んで、バルミロに惹かれたという人も多そうだなと思いました。
二人の接触が楽しみ
上にも書いた通り、最初は誰を主人公として読んだらいいのかわからない本作ですが、次第にコシモとバルミロの二人が気になってくるんです。
多くの人物が登場する本作でもこの二人の描写は特別に濃いんですよね。
しかしコシモとバルミロの物語はなかなか交わらず、途中までは二つの物語が別個に進行しているような違和感すらあります。
コシモとバルミロの運命がいつ交錯するのかがとても楽しみで、これが本作を読み進める原動力になりましたね。
濃厚なアステカ描写
本作が普通のクライムノベルとは一線を画している理由の一つは、失われた文明であるアステカの色彩が極めて濃厚であることです。
アステカは中米に栄えた文明です。
同じ中米で栄えたマヤ文明と混同してしまいそうになりますが、アステカとマヤでは時代が違いますね。
マヤ文明は紀元前2000年頃から繁栄していたのに対し、アステカ文明は14~15世紀頃に栄えたということです。
上にも書いた通り、本作の主役の一人バルミロは祖母から薫陶を受けてアステカの精神を心に宿しており、彼の行動理念の大部分にアステカが関わってきます。
なのでどうしてもアステカに関する説明やウンチクが多くなるのですが、正直、これらがけっこう難しめなんですよ。
本作を楽しめるかは、このアステカ的な概念に興味を持てるかどうかによって大きく変わってくると思います。
私は失われた文明などにロマンを感じるタイプなのでおもしろかったですね。
ルビ(読み仮名)の演出
本作には特殊なルビ(読み仮名)が振られている用語が数多くあります。
普通の小説ではルビは難しい感じに振られることが多く、読書の助けになってくれますよね。
本作の場合、例えば食堂という言葉に「コメドール」というルビが振られています。
これは、メキシコで使われている言葉(スペイン語など)や本作の特徴でもあるアステカ的用語において顕著。
つまり、漢字で日本人の私たちに意味を伝えつつ、ルビで現地の読み方を伝えてくれるわけですね。
このルビの使い方の場合、再登場時も同じルビが振ってあり、専門用語が現れるたびにメキシコ現地の空気感やアステカの呪術的雰囲気を最大限に演出してくれています。
中二感とオシャレさを兼ね備えた見事な演出です。
このルビの使い方ひとつとっても、言葉一つひとつにこだわっている作品だと思いました。
仲間が集まる過程がおもしろい
バルミロが抗争に破れてメキシコを脱出し国外で息をひそめているとき、彼は多くの優秀な人物に出会います。
腕のいい闇医師やすさまじい腕力の持ち主、手先の器用なアクセサリー加工職人などなど。
彼らの多くはアウトローな人間なのですが、それでも優秀な人材がバルミロのもとに結集していく様子はワクワクします。
どういう事情で彼らがカタギの世界から闇の世界に堕ちていったのか、そのあたりの物語も見どころです。
ちなみに、彼らは犯罪者なので身元がバレないようにという用心のため、そして「おれたちは家族だ。」という呪文のもとに仲間意識を高めるためにバルミロから「通称」が与えられています。
例えば、バルミロ自身は「調理師」。
闇医師の一人、野村健二は「奇人」のように。
これらの通称は彼ら一人ひとりの特徴を捉えており、闇社会感も出ていておもしろいです。
ただし、本名と通称の両方が登場し混同してしまいがちなので、私のように登場人物を整理するのが苦手な場合はメモ等を取りながら読むのがおすすめです。
終盤のあっけなさ
本作、めちゃくちゃおもしろかったのですが、終盤に関してはややあっけなさがありましたね。
せっかく集まったメンバーたちが最大限に活躍する前に唐突に終焉が突き付けられた印象なんです。
小説としては、もう少し彼ら一人ひとりの見せ場やクライマックスの盛り上がりが欲しかったと思いました。
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終わりに
圧倒的な暴力感を持つ骨太クライムノベル!とてもおもしろかったです!
バルミロのキャラクターが魅力的だったのと、めまぐるしく展開していく物語が気になってガンガン読み進めてしまいました。
私は残酷なシーンがそれほど得意ではないのですが、アステカ描写のおかげでほどよく和らいだのが良かったですね。
本記事を読んで、佐藤究さんの『テスカトリポカ』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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