こんにちは、つみれです。
このたび、桃野雑派さんの長編ミステリー小説『老虎残夢』を読みました。
中国エンタメ「武侠」の要素を盛り込んだ特殊設定ミステリーです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
本作は、第67回江戸川乱歩賞受賞作です。
作品情報
書名:老虎残夢
著者:桃野雑派
出版:講談社(2021/9/16)
頁数:338ページ
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目次
特殊能力を持つ武術の達人たちが活躍する特殊設定ミステリー!
私が読んだ動機
ミステリー好きの友人から薦められて読みました。
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーが読みたい
- 特殊設定ミステリーが好き
- 武侠小説が好き
- 百合が好き
あらすじ・作品説明
湖に浮かぶ孤島の楼閣で、武術の達人・梁泰隆が死んだ。
「奥義」を授けるという名目で、武侠と呼ばれる3人の武術家たちを招集した直後のできごとだった。
怪しげな武侠たちが集まると同時に起きた、密室状態の湖上の楼閣での不可解な死。
彼の弟子にして一流の武侠でもある女性・蒼紫苑が師父の死の謎に挑む。
武術の達人・武侠
本作『老虎残夢』は、中国の南宋時代(1127年~1279年)を舞台にした武侠本格ミステリーです。
ちなみに、武侠小説とは中国のエンタメ小説の一ジャンル。
武術を得意とし、義侠という特殊な価値観を重んじる「武侠」と呼ばれる人々を中心に描く作品のことです。
武術の達人である武侠たちは厳しい修行を経て、特殊な能力を身につけています。
たとえば、水上を歩行したり、足跡を残すことなく雪上を移動したりといった具合ですね。
本作の登場人物は大部分が武侠で、それぞれ異なる特殊な技術を持っているんです。
「外功」「内功」などの武侠用語がよく出てくるため、武侠関連に興味がある人はニヤニヤできるかもしれませんね。
外功は肉体的な力、内功は体内で生み出される力のこと(作中序盤で詳しい説明があります)
ただ、私のように武侠を全く知らない人でも、序盤で詳しい解説があるため心配はいりません。
そして本作のおもしろい点は、この武侠たちを本格ミステリーの世界で扱ったところなんですよ。
特殊設定ミステリー
本作は、常人には不可能な特殊な技術を身につけた武侠が登場する本格ミステリーです。
とある湖の中央に浮かぶ島に建つ楼閣「八仙楼」で不審死事件が起こります。
死んでいたのは主人公・蒼紫苑の師に当たる老武侠の梁泰隆。
死体発見時に湖で唯一の船は島側にあり、一見するとこれは不可能犯罪です。
しかし、本作の登場人物は武侠なのです。
上にも書いた通り、武侠は特殊な能力を持っていて、なかには水上歩行ができる者がいます。
つまり、水上歩行を習得している武侠は湖上の島に渡って犯罪の実行が可能ということ。
本作は、武侠たちの特殊能力と孤島系クローズドサークルをかけ合わせた特殊設定ミステリーとなっているわけです。
本作の醍醐味は、習得している能力によって当該人物が犯罪を実行できたかどうかを判断するというミステリーとしてオリジナリティあふれる設定。
アリバイだけでなく、所有能力の有無によって犯人を絞り込むという独特のおもしろさが光っています。
なにより、武侠小説の世界観で本格ミステリーをやってしまうというユニークさが新鮮で良かったですね。
個性的な登場人物
本作最大の魅力は、個性的な武侠たちのキャラクターです。
主人公の蒼紫苑は、「軽功」という武術の極意を修めた女性武侠で自分の体重を極限まで減らすことができます。
その他、姉御肌で商才豊かな女性や気さくで少しズボラ系の男性、外功(肉体的なパワー)に全振りした僧侶など、各武侠のキャラ造形がかなり魅力的です。
彼らは武侠と呼ばれる人種なのでそれぞれ特殊技能を身につけているのですが、それも各キャラにマッチしていて良かったですね。
キャラクター・性格・特殊能力を結び付けて覚えるのが大変そうと思うかもしれませんが心配無用。
登場人物がそれほど多くない上、全員が個性豊かで覚えやすく、人間関係も複雑ではないのでミステリーに慣れていない人でも安心して楽しめますよ。
百合要素
本作を大きく特徴づけているのが、そこそこ強めな百合(女性同士の恋愛)要素です。
主人公の女性武侠・蒼紫苑と、その師父である梁泰隆の養女・恋華が百合の関係にあります。
これに関しては好みの問題ですが、正直なところ、個人的には百合要素はあってもなくてもどちらでもいいかなという感じでした。
百合が好きな人にとっては、本作をよりいっそう楽しめること間違いなしですね。
この百合要素はそれほど物語本筋には深く関わってこないので、私のように百合に興味がない人でもサラッと流して読めてしまいます。
ただ、物語として完全に浮いた設定というわけではなく「師弟及びその縁者との恋愛はご法度」という武侠の世界の約束事によって物語に緊張感が生まれているのは良かったです。
百合が好きな人はぜひ本作『老虎残夢』をチェックしてみてくださいね。
ミステリーとして
水上の孤島で起こる密室殺人と武侠の特殊能力を絡め、特殊設定ミステリーを展開するのは非常に魅力的なテーマですね。
と言いつつ、個人的にはミステリー要素は薄めという印象でしたね。
正直に言うと、「特殊設定を生かした本格ミステリー・中国歴史もの・武侠同士のバトル・百合」と、要素を多く盛り込みすぎている感があります。
武侠の特殊能力と本格ミステリーをかけ合わせた部分をもっと濃厚に読みたかった気持ちが強いです。
もし続編があるなら、武侠の特殊設定を生かした本格ミステリーの方向に深く掘り下げていってほしいと思いました。
歴史ものとして
個人的におもしろかったのが、中国南宋時代の歴史的背景の描写です。
私は南宋時代の歴史にはあまり詳しくありませんが、作者による丁寧でわかりやすい説明が加えられているのでスラスラと読めてしまいます。
悲劇の名将・岳飛などの名前も登場し、この時代の歴史を勉強してみたくなりました。
このあたりは歴史小説を読んで知識を増やす楽しさを感じられてとても良かったです。
歴史的な事実と各武侠たちの関わりや位置づけ、それにまつわる物語的な部分が非常によく練られている一冊です。
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終わりに
『老虎残夢』は、中国エンタメ「武侠」の要素を取り入れた特殊設定ミステリーです。
武侠がそれぞれ持っている特殊能力が本格ミステリーに絡んでくるユニークな味わいが魅力の一冊でした。
本記事を読んで、桃野雑派さんの『老虎残夢』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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