こんにちは、ききと申します。
この度、当ブログに記事を寄稿することになりました。よろしくお願いします。
今回は私が敬愛する歌人・穂村弘さん(通称:ほむほむ)と、その作品をご紹介します。
歌人と言うからには歌集の紹介ですか?
いえいえ。
そう思われるかもしれませんが、ここでは穂村さんのエッセイ本についてお話ししたいと思います。
そう、穂村さんはエッセイがとんでもないくらい面白いのです。
以前からやってみたかった「本好きの友人に寄稿してもらう」記事となります。第一弾は穂村弘さん好きのききさんより寄稿していただきました。ありがとうございます!
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目次
穂村弘の独特な世界観
穂村弘とは
まずは穂村さんをご存知でない方のために、彼の人となりからご紹介しましょう。
ベーシックなプロフィールは下記の通り。
- 1962年生まれ
- 1990年『シンジケート』で歌集デビュー
- 歌論集『短歌の友人』、エッセイ集『鳥肌が』など著書多数
次にエッセイ集『世界音痴』(2009年/小学館文庫)の紹介文を見てみましょう。
末期的日本国に生きる歌人、穂村弘(独身、39歳、ひとりっこ、親と同居、総務課長代理)。雪道で転びそうになった彼女の手を離してしまい、夜中にベッドの中で菓子パンやチョコレートバーをむさぼり食い、ネットで昔の恋人の名前を検索し…(以下略)『世界音痴』、著者紹介文より
うーん。なかなかやばそう。
末期的日本国に生きる、世間的には“あまりこうなって欲しくない成人男性像”がここにある感じがします。
しかし、これが彼の生態を正しく的確に表しているものになるのです。
私が穂村弘に出会った経緯
数年前、エッセイにどハマりしていた時期があったのですが、たまたま図書館で穂村弘さんの『本当はちがうんだ日記』(2008年/集英社)を見つけました。
なんだ、この言い訳がましいタイトル・・・。
と、思わず手に取ってしまったのが、彼との出会いでした。
本を開くと、そこには40歳を過ぎた男性の苦悩と葛藤が絶妙なワードセンスで面白く(多分本人は真剣なんだろうけれど)描かれていたのです。
「いまだに人生リハーサル中。いつか輝く人生の本番を迎える日が来るのだろう」と思いつつ、未だにエスプレッソが飲めない、主食は菓子パン(しかもベッドで食べる)・・・といった残念感は、まさに”本当はちがうんだ”状態。
しかし、そんな残念な自分の“素敵レベル”を上げようと奮闘する姿は、異様ながらも意外に共感する部分もあり、読み終わる頃にはまんまと”穂村弘ファン”が一人完成していた訳です。
穂村弘の魅力
歌人ならではのワードセンスと文章構成
ここまで穂村さんのダメダメ感全開の部分ばかりお話ししてきましたが、現代短歌を代表する歌人の一人であり、現在も短歌を詠み、他者の作品の批評等も行っています。
彼のエッセイの中にも所々に短歌が散りばめられており、その作品達はやはりエッセイの内容に通じている部分があります。
ここで私のお気に入りの歌をいくつかご紹介しましょう。
歌という架空の世界の中に現実的なワード、時には固有名詞をぽいっと放り込むことで、空想と現実の曖昧な境界線を楽しめるのが短歌の面白いところ。
それを表すには、ワードチョイスはもちろんのこと、単語を入れる順番や組み合わせも重要になってきます。
穂村さんの歌は、ふわふわとした妄想空間から現実へいきなりぐっと引き込む力が本当に強い。
言葉を巧みに操り、他人事とは思えない、思わせない世界観に引き込んでしまうのです。
それはエッセイでも然り。
短歌とは逆に事実を述べていくエッセイでは、辛辣な現実にメルヘンな単語を織り交ぜて、くすっと笑えるような”穂村ワールド”を展開させます。
『蚊がいる』(2013年/KADOKAWA)でこんな一文があります。
自分が「咄嗟のタイミング」をうまく扱えない理由はわからない。だが、私が生まれたとき、誕生日会に呼ばれなかった妖精が「この子は一生タイミングのとれない人間になるでしょう」と呪いをかけたのかもしれない。『蚊がいる』
自分のコンプレックスをお伽話化する強引さ、タイミングを上手く扱えない悔しさを”誕生日に呼ばれなかった妖精”というメルヘンなワードで柔らかくさせるユーモラスさに彼の魅力と巧妙なテクニックを感じるのです。
「こんなこと考えているの、自分だけかも」を代弁してくれる
あんなにもおどおどしているのに、穂村さんは自分が不安に思うこと、疑問に思うこと・・・普通の人であれば世間体を気にして口に出せないようなことを、堂々と代弁してくれています。
例えば『蚊がいる』から。
「押したらこいつの心臓が止まるボタン」が手のなかにあったら即押す。『蚊がいる』
読んだ瞬間「分かる。」と思ってしまった自分に若干不安を覚えつつも、「同じ事考えてる人いたんだ!」という不思議な喜びを覚える快感。(ちなみに私は仕事で出会ったハイパークレーマーに、これを発動したいと思いました)
ものすごい闇を感じる。
また、これは恋愛観についても同様。
『もしもし、運命の人ですか。』(2010年/メディアファクトリー)にはこんな一文があります。
今日という日の「可能性」が終わってしまう痛み『もしもし、運命の人ですか。』
気になる異性とのデート。会話は楽しい、けれど何も進展がないまま帰路に着く・・・その瞬間、今日この日に彼女、または彼との進展は見込めない。そんな絶望感。
これもあまり人とは話さないけれど、確実に日本中の何割かは思ったことがあるはず!
というか私がそのうちの一人で、この一文に出会った瞬間、もはや穂村さんに「この感情を言葉にしてくれてありがとう!」とすら思いました。
世間の目を気にする割に、素朴だけど重要な疑問や社会の理不尽さをはっきりと言ってくれる、そんな穂村さんが私にとってはヒーローにすら思えてしまうのです。
「気にするところ、そこ?」独特の着眼点
普通の人であれば目を向けないようなことにも目を向ける・・・というより滅茶苦茶注目してぐるぐる思考を巡らせてしまうのも穂村さんの魅力の一つ。
『現実入門』(2009年/光文社)というエッセイで献血ルームに行った時の話では、血を抜くことよりも、献血ができない条件の中にある「不特定多数の異性と性的接触を持った方」の「不特定」の基準に注目。
人数の問題ならまだしも、そこに愛があるべきか否か、についてまで思考を巡らせる様は逸品。
しかし、そこに穂村さんがこの世界で生きる必死さが表れている気がして、好感すら覚えてしまいます。
また、『きっとあの人は眠っているんだよ』(2017年/河出書房新社)で書かれていた、児童書を購入する際の話も穂村さんらしさ全開。何せその購入基準として書かれていたのがこちら。
「小学校中級以上」と記されている。OKだ。『きっとあの人は眠っているんだよ』
いやいや、もう大人なんだしそこ気にしなくて良いでしょう?!というところまで目を向けるのが穂村さん。
ああ、この人、超真面目なんだろうなあ・・・とにやにやしつつ、こうして私はまた、彼の虜になっていくのです。
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穂村弘のおすすめエッセイ3選
以上の内容を踏まえて、まだ穂村さんのエッセイを読んだ事がない方に、ぜひ!ぜひとも!読んでいただきたい作品を3作ご紹介します。
世界音痴
1点目は『世界音痴』。
私的には”穂村ベーシック本”と言える一冊。
独り暮らしも結婚も転職も骨折もせず、他者と比べて人生の経験値が低いという自分の駄目っぷりを赤裸々に描く様には、妙な愛おしさすら生まれてしまいます。
そんな中、所々に登場する短歌が「舐めんなよ?」という感じに棘があり、穂村弘ワールドの奥深さを感じられる作品でもあります。
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現実入門―ほんとにみんなこんなことを?
2点目は『現実入門―ほんとにみんなこんなことを?』。
人生の経験値が低く、”端的に臆病で怠惰で好奇心の無い性格”の穂村さんが、光文社の編集・サクマさんと共に、献血・占い・モデルルーム見学、果ては合コンと、様々な現実に挑むエッセイ。
私の一番好きな作品です。
この作品の紹介文に「虚虚実実エッセイ」とあるのですが、まさにそれが本書の魅力。
現実と妄想がごっちゃになった世界観は癖になります。ちなみにサクマさんが非常に可愛らしい。
もしもし、運命の人ですか。
3点目は『もしもし、運命の人ですか。』。
これは恋愛体験記でも指南書でもありません。
穂村さんが恋愛について延々とシミュレートし、恋愛における様々な問題や事象の見解、意見、さらには提案(そして妄想)が書かれているのです。
どことなーくアンニュイでロマンス溢れる穂村さんの脳内。
でも意外にも共感できる部分が多く震えてしまう一冊です。
全ての男女が読むべき作品だと思っています。
つまり人類全員読むべき作品。
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最後に
いかがでしたでしょうか?
自分でも書いていて想いが止まらなくなり、「私、こんなに穂村さんのこと好きだったんだ・・・」と一人慄いております。
今回はエッセイに焦点を当ててご紹介しましたが、先に書いた通り短歌の作品も非常に魅力的なものばかりですし、無類の本好きの方ですので読書に関する話も堪らなく面白いものばかりです。(古本がお好きなようで、かなりマニアックです)
そして、このような作品では、今回書いたようなダメダメ感は全くなく、キリッとした人格の穂村さんが登場します。そのギャップがまた堪らない…その表情もぜひ覗いてみて頂きたいです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
きき
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