こんにちは、つみれです。
このたび、宮下奈都さんのエッセイ『神さまたちの遊ぶ庭』を読みました。
一年限定で北海道の集落トムラウシに移住した宮下一家の暮らしぶりを描いた、見どころ満載のおもしろエッセイです!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:神さまたちの遊ぶ庭(光文社文庫)
著者:宮下奈都
出版:光文社(2017/7/11)
頁数:336ページ
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目次
北海道トムラウシでの一年を情感たっぷりに描く!
私が読んだ動機
新刊のチェックをしていたら、宮下奈都さんのエッセイ『緑の庭で寝ころんで』を見つけたのですが、本作『神さまたちの遊ぶ庭』がその前編があたるようだったので読みました。
こんな人におすすめ
- エッセイが好き
- 山村留学の体験記が読みたい
- 数々のおもしろエピソードで笑いたい
あらすじ・作品説明
宮下一家はもともと福井県に住んでいたのですが、宮下さんの夫の「どうしても北海道で暮らしてみたい」という希望により、二年間帯広に住む予定になっていました。
ところが。
「せっかく北海道へ行くなら、大自然の中で暮らさないか、ってこと」
『神さまたちの遊ぶ庭』kindle版、位置No. 31
夫の酔狂に付き合わされて、「山村留学」という形で北海道の山奥「トムラウシ」へ一年限定の移住を決める宮下さん一家ですが、次第にトムラウシでの暮らしに魅了されていきます。
『神さまたちの遊ぶ庭』は、そんな宮下一家のトムラウシでのちょっと珍しい日常を描いた日記風の癒しエッセイです。
とにかくトムラウシでのかけがえのない一年間を精一杯楽しんでいるのが伝わってくるすばらしい一冊となっています。
文章がすばらしい
本エッセイの魅力の一つは、宮下奈都さんの文章です。
宮下さんの文章の特徴は、穏やかで落ち着いていて、素朴でありながらも極めて理知的。
グイグイ読ませるというのではなく、自然と読み進めてしまう親しみやすさがあります。
素朴で飾らない宮下さんの筆致が、トムラウシで自然や周りの人に感謝しながら生活していくスタイルに絶妙にマッチしています。
加えて、ほぼ全部の記事がとてもユーモラスなんです!
ユーモアのかたまりのような宮下さんの文章を最大に味わうことができるエッセイとなっていますよ。
トムラウシの生活と人々
私は東京で暮らしていますが、いわゆる「ご近所付き合い」はほとんどありません。
そういう暮らし方に気楽さすら感じて生きています。
そんな私から見ると、どんなものでも集落内の人々と協力しあって作り上げていくトムラウシの人々の生活は一見、窮屈そうに見えます。
しかし、当の宮下さん一家はとても楽しそうに毎日を暮らしています。
地域のつながりの希薄化がいよいよ顕著になっている都市部の生活と比べたとき、本作で描かれるトムラウシの生活に「うらやましさ」を感じてしまう一瞬があるはずです。
たとえば学校ひとつ見てみても、やっぱりうらやましいんですよね。
少子高齢化が進み、都市部の小学校も児童数が減ってきていますが、トムラウシは小中学校あわせて児童生徒が15人という少なさです。
しかし、本作では、児童生徒数が少ないがゆえの良さというものが、これでもか!というほどに描かれています。
- のびのびとした教育。
- 濃厚で濃密であたたかな人間関係。
- 大人の目がしっかりと行き届いた安心な社会。
現代の多くの都市部で失われてしまった「地域社会のつながりの良さ」というものを垣間見るような読書でした。
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『羊と鋼の森』が生み出された場所
宮下奈都さんの代表作といえば、新米ピアノ調律師の成長を描く小説『羊と鋼の森』が有名。
2015年に直木賞候補作に、2016年には本屋大賞に選ばれ、2018年には映画化もした傑作です。
実は、その『羊と鋼の森』を執筆していたのが、まさにこのエッセイ『神さまたちの遊ぶ庭』で描かれている時期にあたります。
あの傑作が生みだされた背景にはトムラウシでの生活があったのか、という読み方もできますね!
おもしろいエピソードが多すぎる
ときにはトムラウシの生活の快適さを、ときにはトムラウシの生活の過酷さを如実に伝えてくれる本エッセイ。
山村留学のメリットだけでなく、デメリットについてもちゃんと書かれていて、単なる「うらやましがらせ」エッセイではありません。
それでもドンドンと読み進めていけてしまう最大の理由は、とにかく「おもしろエピソードが多すぎる」こと。
まず、宮下一家(奈都さんと夫とその子供三兄妹の5人)のキャラクターがみんな個性的で楽しいです。
加えて、トムラウシの住人たちは小説のキャラクターではないかと言わんばかりにキャラが立っていて、「彼らの日常のやりとりが私にとってはおもしろエピソードばかり」でした。
「三兄妹の中で最もまじめできちんとしている働き者」として紹介された宮下家次男。
その直後に、自分のことエッセイに登場させるなら「漆黒の翼」という仮名にしてくれと頼んだエピソードとか、好きですねえ。
まじめと紹介された彼から唐突に飛び出た中二ワードに思わず笑いましたね。
他にも曲者ぞろいのトムラウシ住人とのおもしろエピソードなどがたくさん描かれています。校長先生とか、マジでいいキャラしてますからね!
それらのエピソードの良さを細大漏らさずすくい取る宮下さんの感性と、それをしっかりとおもしろく描き取る筆力に拍手です。
トムラウシに惹かれていく一家
もちろん本作に描かれているのは笑えるエピソードばかりではありません。
一年限りという約束でトムラウシに移住してきた宮下さん一家です。
終わりの日が近づくにつれて突き付けられる「トムラウシに残るか」「福井に戻るか」という選択。
それが次第に現実味を帯びていく。
その決断から必死に目をそむけながら、残された毎日を精一杯楽しんでいる宮下家の姿には心が締め付けられるようなさみしさがあります。
終盤は、宮下家にとって本当にかけがえのない一年だったんだなあ、と思わせてくれるシーンの連続です。
ぜひ、本書を手に取って読んでもらいたいですね!
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終わりに
これは本当にいいエッセイでした。
トムラウシでの生活で目覚ましく成長していく三兄妹もよかったですし、文章の端々から伝わってくる宮下さんの人柄の良さもとても心地よかったですね。
一家のトムラウシでの一年と、その後についても描かれているというエッセイ『緑の庭で寝ころんで』も読んでみたいと思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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