こんにちは、つみれです。
このたび、田中啓文さんの『信長島の惨劇』を読みました。
本能寺の後、死んだはずの織田信長から呼びつけられた武将たちが不気味な島で殺害されていく、歴史ものとミステリーを掛け合わせた小説です。
タイトルや設定だけ見ると「バカミスか!?」と思ってしまいますね(笑)
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:信長島の惨劇(ハヤカワ文庫JA)
著者:田中啓文
出版:早川書房
頁数:336ページ
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目次
戦国版「そして誰もいなくなった」!
私が読んだ動機
以前、オンライン読書会で紹介され、おもしろそうだったので読みました。
ちなみに、このオンライン読書会のレポート記事は下記です。
>>「日本史」がテーマのオンライン読書会に参加したのでレポートを書くぞ!
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーが好き
- クローズドサークルが好き
- 戦国時代が好き
- 戦国とミステリーを融合させた異色の作品を読んでみたい
あらすじ・作品説明
本能寺の変で織田信長は死んだはずだった。
その死んだはずの信長から、とある島に招かれた羽柴秀吉・柴田勝家・高山右近・徳川家康ら4名の武将たち。
不気味な島で歴戦の戦国武将が一人、また一人と殺害されていく。
戦国版「そして誰もいなくなった」
本作『信長島の惨劇』は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をオマージュした孤島系のクローズドサークル系ミステリーです。
クローズドサークルの説明は下記の通り。
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 Wikipedia「クローズド・サークル」
外界との連絡手段が絶たれることも多い。
サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。
「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。
ただ、普通のクローズドサークル系ミステリーと決定的に異なるのが舞台設定です。
『信長島の惨劇』というタイトルからもわかる通り、本作は日本の戦国時代を舞台としており、織田信長や羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)などが登場するのです。
時代背景としては、織田信長が本能寺の変で落命した直後。
戦国時代の名のある武将たちのもとに、死んだはずの信長から書状が届き、孤島「のけもの島」に一人で来るよう呼びつけられます。
そして呼びつけられた武将たちが一人、また一人と殺害されていくのです。
ミステリーと歴史小説が大好きな私を狂喜乱舞させる設定ですが、思いついても普通やらないでしょ(笑)
最初は歴史小説風
上にも書いた通り、本作はミステリーと歴史小説を融合させた作品ですが、序盤はあくまで普通の歴史小説です。
戦国時代の背景や登場する武将など、本作を楽しむうえで知っておいた方がいい知識を事前に説明してくれているわけですね。
島に呼びつけられる武将は下記の通り。
- 羽柴秀吉
- 柴田勝家
- 高山右近
- 徳川家康
知名度的には高山右近が若干低めかもしれませんが、それでもそうそうたるメンバーですね。
上記の武将が本能寺の変でどういう役割を果たしたか、もしくは信長との関係性はどんな感じだったか、などを事前に理解したうえでミステリーパートに臨めるつくりになっています。
歴史に詳しくない人でも楽しめるように配慮されているので安心ですね。
本作に登場する戦国武将たちはそれぞれ一般的に知られているイメージ通りの性格をしています。
戦国時代が好きな人にとっては、「いつも通り」の彼らがなぜかミステリーの舞台に立たされている不思議さ、滑稽さを味わうことができますよ。
また、島で武将たちを待ち受ける側にも歴史上有名な人物が多数登場するのでこれから読む方はお楽しみに。
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急にミステリーに
途中までは完全に歴史小説のノリで進む本作ですが、秀吉らが島に呼びつけられるあたりから様子が変わってきます。
秀吉や家康が一人ずつ船で島に向かうシーンは完全に『そして誰もいなくなった』のオマージュ。
死んだ信長から書状が届くことの不可解さや、島に呼びつけられたことの意味について、各武将の考えを知ることができるシーンです。
武将たちの性格や立場の違いを知ることができておもしろいですね。
呼びつけられた武将たちの「負い目」
物語の序盤、船で「のけもの島」に向かっている途中の武将たちはおのおの不安な心情を吐露します。
この船のシーンでは詳細は明かされませんが、誰もが信長に対して負い目を感じていたり、秘密を持っていたりする様子なのです。
各武将ともに信長に対して面従腹背とは言わないまでも、なんとなく腹に一物を抱えている感じが透けて見えます。
読者としては、これから起こるであろう惨劇と、各武将たちの抱えている秘密との関係が気になって、ついつい先を読みたくなってしまうんですよね。
わらべ歌
本作の序盤で、本能寺の変の直後からとあるわらべ歌が流行っていることが示されます。
ミステリーにおいて「歌」が出てきたら、頭をよぎるのは「見立て殺人」。
歌詞を見るといかにも人が死にそうです(笑)
私などはもうこれだけでワクワクしてしまいます。
見取り図
武将たちは「のけもの島」に到着したあと、島にある寺に滞在することになります。
なんと本作にはその寺の見取り図まで用意されています。
歴史小説風だった最序盤から一転して、わらべ歌に加えて見取り図まで登場すると、いよいよミステリーサイドに舵を切った感がありますね。
いかにもミステリー的な見取り図なのに、部屋割りでは「羽柴秀吉」とか「柴田勝家」とか戦国武将の名前が書いてあるので、その違和感についつい笑ってしまいます(笑)
謎解きはしっかりミステリー
物語が進行し被害者が出始めると、戦国武将たちが本格的に犯人捜しや謎解きを始めます。
マジメなシーンなのにどうしてもニヤニヤ笑ってしまいますが、あくまで舞台が戦国というだけで展開はしっかりとミステリー小説なんですよね。
正直、トリック自体はかなりの力技ですが、史実と創作をうまく絡めたおもしろいものになっています。
日本史や戦国時代の知識がある人ならおもしろさもアップ!
設定だけ見るとイロモノ感が強い印象を受けますが、実際に読んでみると歴史ものとミステリーをうまく融合させた一作であることがわかります。
史実との整合性
日本史に詳しい人なら気づくかもしれませんが、本作はそもそも設定の時点で大問題を抱えています。
どういうことかというと、島に呼びつけられる羽柴秀吉・柴田勝家・高山右近・徳川家康の四将はいずれも、本能寺の変後の日本史でまだまだ活躍する武将だということです。
つまり、史実をもとに考えるならば、本能寺の変直後の本作の事件では誰一人死んではならないのです。
なのに、本作では彼らの間で「惨劇」が繰り広げられていきます。
どう考えても本作で描かれる事件と一般的に知られている史実とは整合性が取れません。
私はこの大問題に対して本作がどのようなオチをつけるのかが気になって最後まで一気に読みました。
だってこれ、気になるでしょ?(笑)
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終わりに
『信長島の惨劇』は、日本の戦国時代とクローズドサークル・ミステリーをうまく融合させた挑戦的な一作です。
私のように「歴史小説とミステリー小説は両方とも好き」という方にはかなりおすすめ。
いかにもミステリー的な舞台設定のうえで戦国武将たちが動き回る場違い感マックスのおもしろさを味わってほしいですね。
本記事を読んで、田中啓文さんの歴史ミステリー小説『信長島の惨劇』がおもしろそうだなと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてください!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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